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女性アーティストたちを顕彰し、創造性を振興する。AWAREの10年の歩みと日本での展望

2014年にパリで設立された「AWARE: Archives of Women Artists, Research & Exhibitions」。18世紀〜20世紀の女性アーティストたちを再評価し多言語でその業績を公開、現代における創造性の振興に国際的に寄与してきている。この非営利団体の特筆すべき活動、「AWARE - 日本」設立の背景、そして2月東京で開催されるイベントについて、共同設立者兼エグゼクティブ・ディレクターのカミーユ・モリノーと国際プログラム責任者のニナ・ヴォルツに話を聞いた。

聞き手・文=飯田真実

カミーユ・モリノー(AWARE共同設立者兼エグゼクティブ・ディレクター)、AWAREの拠点があるパリ15区のヴィラ・ヴァシリエフ中庭にてPhoto : Valerie Archeno, 2021 © AWARE : Archives of Women Artists, Research and Exhibitions

AWAREの誕生とその活動理念

──モリノーさん、ヴォルツさん、本日はありがとうございます。とくにモリノーさんがポンピドゥー・センター、グラン・パレ、パリ造幣局でキュレーターを務めたコレクション展や企画展を拝見してきており、今日お話できることを本当に嬉しく思います。はじめに、AWAREをまだ知らない読者のために、「AWARE: Archives of Women Artists, Research & Exhibitions」(以下、AWARE)の創設理由とその背景、また10年におよぶ活動を簡単にご紹介いただけますか?

カミーユ・モリノー(以下、モリノー AWAREは、2009年にポンピドー・センターで開催された「elles@centrepompidou」展の際に、フランス国立近代美術館のコレクションを通して女性アーティストに光を当てたことから始まりました。この経験から私は、女性アーティストの問題はその不在にあるのではなく──女性アーティストは数多く存在し、存命中もしばしば認知されていたので──彼女たちに関する情報が不足していることにあると気づきました。2009年当時、彼女たちに関する出版物やデータはほとんどなく、このことが悪循環を生んでいました。情報がなければ、女性アーティストに触れる機会もなく、その結果、研究される機会も減っていたのです。

 そのとき、この悪循環を断ち切る鍵は、信頼できる網羅的な情報を入手できるようにすることだと考えました。そして、ウェブサイトを立ち上げることにしました。コンテンツを広く発信するための強力なツールだからです。当時は先見的だと思われましたが、いまではその効果は明らかですよね。展覧会開催時にサイトの初期バージョンを立ち上げ、現在もアクセスできます。

2009年5月27日〜2011年2月21日に開催された「elles@centrepompidou」展では、20世紀初頭から現代までの150人の女性アーティストによる350点の作品が展示された。テーマごと年代順の展示で、視覚芸術、写真、デザイン、建築、映像、パフォーマンスなど、様々な分野の女性クリエイターを紹介。200万人以上の来場者を魅了し、近現代美術史における女性アーティストの認知向上に対するポンピドゥー・センターの参画を強化した

 この展覧会の後、ポンピドゥー・センターで仕事を続けていると、男性アーティストに焦点を当てた展覧会がまだ多数派であることに気づきました。2013年、私は同施設を離れ、国際的なレベルで美術史、大学、美術館の慣習に永続的な変化をもたらすツールをつくることに専念することにしました。AWAREは、グラン・パレで「ニキ・ド・サンファル」展に携わっていた14年に誕生しました。ニキ・ド・サンファル(*1)は、私にとって大きなインスピレーションの源でした。フェミニストであり、急進的で独創的なアーティストであると同時に、陽気で大胆でした。彼女は、今日も私にインスピレーションを与え続けてくれる存在です。 

 AWAREの主な目的は、女性アーティストの図解百科事典をつくることです。彼女たちの作品を理解するためには、図版は欠かせません。文章で十分なほかの分野とは異なり、作品そのものが不可欠なのです。しかし、版権が高価なフランスでは、これは経済的な課題となります。また、フランス語から英語に訳して情報を公開するだけでなく、スペイン語や日本語などそのほかの言語からも参照できるようにするには、翻訳コストもかかります。

 そのため、この野心的なプロジェクトを支える資金を見つけることが大きな課題のひとつでした。当初、多くの人たちから、高額な費用がかかるから無理だと言われましたが、私は資金調達の方法を学び、次第に美術史家から真の起業家へと変身していったのです。この10年間、チームとともにファンドレイジングについて学んできましたが、私たちの野望を実現するためには、資金調達は不可欠なスキルとなっています。

 私は6人の友人とAWAREを共同設立し、そのうちのひとりである弁護士のナタリー・リガルは現在、この非営利団体の会長です。私は、美術史家としての私のプロフィールを補完してくれる人たちに囲まれ、彼女たちから定期的に助言をもらい、組織を構築しそれを発展させるための手助けをしてもらっています。パリ・オペラ座のヴァイオリニストや、文学や映画を教えている友人も含まれています。というのも、私たちのプロジェクトは、当初、創作のあらゆる分野における女性の歴史を書くことを目的としていたからです。

──無料で誰でも利用できるツールであっても、フランスでは図版の著作権料や写真家への支払いが発生するのでしょうか?

モリノー もちろんです。また、この点を明確にすることは重要です。フランスでは、たとえ無料の教育プロジェクトであっても、写真家やアーティスト、またはその権利者に対してロイヤリティを支払う必要があります。これはフランスの法律上の義務です(*2)。

──AWAREに関する主な数字として、年間予算、職員や協力者の人数、訪問者数やイベント数などを教えていただけますか?

モリノー AWAREの年間予算は約100万ユーロ(約1億6000万円)で、もう少し多いときもあります。公的資金が占める割合は非常に小さく、15~20パーセント程度です。ご存知のように、一般的に80パーセントの文化機関は国から資金援助を受けています。私たちはその逆です。AWAREは、シャネルを長年のスポンサーとして、主に民間のパトロンから資金援助を受けています。当時、シャネルのおかげで私たちはチームを立ち上げ、固定費を賄うことができました。また、そのほかのパートナーもおり、その全リストはウェブサイトに掲載されています(*3)。職員に関しては、AWAREは5人のフルタイムスタッフと約5人のフリーランサーを雇用しています。さらに、毎年100人から150人の執筆陣と協力しています。中心となるメンバーは少人数ですが、チーム全体が非常に熱心に取り組んでいます。

ニナ・ヴォルツ(以下、ヴォルツ 訪問者数に関しては、私たちのウェブサイトには月に約15万のアクセスがあり、時折それを超えることもあります。うち、ユニークビジターは月に約8万人です。イベントは年間20〜25ほど開催しています。パリ15区にある私たちの施設では、ワークショップ、会議、「Journées du Matrimoine/Patrimoine(遺産の日)」といった特別イベントなどを年間10〜20ほど行いながら、このスペースが芸術家マリー・ヴァシリエフ(*4)にちなんだこの施設を宣伝しています。2024年には、ヴィラで18のイベントと、中学校・高校向けに10以上のワークショップを開催しました。さらに、国際的にも5〜6件のイベントを開催しています。同じく2024年に、アフリカの1960年代の女性アーティストに関する研究プログラムの一環としてウガンダで、また「The Flow of History. Southeast Asian Women Artists」というプログラムの一環としてインドネシアでイベントを行いました。  

AWAREは1910年代に芸術家マリー・ヴァシリエフがアトリエを構えた、パリ15区のヴィラ・ヴァシリエフにある © Margot Montigny
ヴィラ・ヴァシリエフにあるAWAREドキュメンテーション・センターでは、16世紀から現代までの女性やノンバイナリーのアーティスト、フェミニスト、クィアの美術史や理論に関する3800点以上の資料が閲覧できる。内装は仏デザイナーのマタリ・クラッセ。写真は同施設で2023年に行われたパフォーマンス「Rester.Étranger」の様子 Photo de Canela Laude © AWARE : Archives of Women Artists, Research and Exhibitions

編集部

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