「さいたま国際芸術祭2023」は4つのキーワードで構成。目[mé]がディレクション

さいたま市を舞台に、3年に一度開催される芸術「さいたま国際芸術祭」。その3回目となる「さいたま国際芸術祭2023」の詳細が発表された。ディレクターは現代アートチームの目[mè]。

文・撮影=中島良平

 文化芸術を生かした地域の活性化、都市の魅力向上を目指し、文化芸術都市としてのさいたま市を創造するため、国内外のアーティストとともに2016年に第1回が実施された「さいたま国際芸術祭」。ディレクターを現代アートチーム 目[mè]が務める「さいたま国際芸術祭2023」のテーマは、「わたしたち」となることが発表された。気候変動や社会格差、分断など、様々な問題を抱えるこの世界を新たな目線でもう一度「みる」ことにつながる芸術祭を目指すという。

 7月12日に行われた記者発表では、さいたま国際芸術祭実行委員会会長でさいたま市長の清水勇人が、「政令都市に制定されて20周年という節目の都市を市民と祝い、『共につくる、参加する』を念頭に、世界に発信できる芸術祭にする」という目標を述べた。

清水勇人さいたま市長

 第1回からプロデューサーを務める芹沢高志は、ディレクターを務める現代アートチーム目[mé]が設定した「わたしたち」というテーマを困難の多い現代社会に適合するものだと高く評価し、必ず世界から注目されるはずだと自信をのぞかせた。

 目[mé]のディレクター・南川憲二は、埼玉県にアトリエを構える立場から、さいたまについて「都市社会の発展に主体的に関わりながらも、どこか客観的で、繊細で曖昧でどこかとらえがたい土地」だと話す。そのうえで、本芸術祭の目標を次のように語っている。

  「人類規模で直面することになったパンデミック。いまだ終わりの見えない紛争、気候変動。現代社会を取り巻く『わたしたち』の加害性を抜きに語ることのできない様々な人類的な課題を抱えるこの時代に、改めてどのように『わたし』の延長線上にあるこの街、この世界をとらえていくことができるのか。そんなことをテーマにした国際芸術祭です」。 

現代アートチーム 目[mé] 左からディレクター・南川憲二、アーティスト・荒神明香、インストーラー・増井宏文

 「旧市民会館おおみや」をメイン会場とする「さいたま国際芸術祭2023」は、「営みの集合体」「スケーパー」「さいたま」「もう一度『みる』」という4つのキーワードで構成される。

 目[mé]がディレクションするメイン会場では、大ホールで音楽ライブやパフォーミング・アーツの公演、映画の上映など多様な演目を開催するほか、公演のない日にも準備やリハーサルを公開。各展示室には写真や彫刻、インスタレーションが展示され、日々変化を続ける。それは「営みの集合体」であり、「さいたま」であり、見るという行為を問い直す「もう一度『みる』」という3つのキーワードと明確にリンクしている。

 「スケーパー」とは目[mé]の造語であり、「絵に描いたような画家」の格好をした風景画家であったり、まるで計算されたかのように綺麗に並べられた落ち葉であったり、景色の一部になってしまったかのような人やものを表す。パフォーマンスとそうでないものの差が曖昧になるような、鑑賞者なのかパフォーマーなのか、その境界も無効化してしまったようなプログラムを多数展開するという。そこには彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督である近藤良平(コンドルズ)や、都市・建築研究者の田口陽子も加わり、目[mé]とともに企画が進められるという。

 メイン会場に参加する作家を見ただけでも、アーニャ・ガラッチオ(アーティスト/イギリス)、イェンズ・パルダム(電子作曲家/デンマーク)、伊藤比呂美(詩人/日本)、今村源(美術家/日本)、エム・ジェイ・ハーパー(ダンサー・振付師/ジャマイカ)ジム・オルーク(音楽家/アメリカ)、沙青(映画作家/中国)、テリー・ライリー(音楽家/アメリカ)、平尾成志(盆栽師/日本)、ミハイル・カリキス(アーティスト/ギリシャ)ほか、国内外から多彩な表現者が結集する。

スケーパーイメージ Photo: 目[mé]

 「さいたま国際芸術祭」を特徴づけているのが、市民プロジェクト・キュレーターによる展開だ。市内で創作活動を続けているアーティスト、アートプロジェクトを牽引してきたアート・コーディネーターがキュレーターとなり、市内全域でプログラムを実施する。

 美術家・写真作家・造形ワークショップデザイナーの浅見俊哉が展開するのは、[さいたまアーツセンタープロジェクト2023*(SACP2023*)]。生活都市であるさいたまの日常生活の中に、誰もがアートに参加する習慣を生み出す「アーツセンター」を創造するプロジェクトを「さいたま国際芸術祭2020」より開始し、今年は「人と土地と表現」の魅力を体感できる50のプログラムを実施する。

浅見俊哉

 アーティストの飯島浩二が手がけるのは、「さいたま市文化施設 味変企画〈市内文化施設に現代アートのスパイスを〉」。大宮盆栽美術館、岩槻人形博物館、鉄道博物館、漫画会館という4つの文化施設に現代アートのエッセンスを加えるこのプロジェクトに加え、車で公道をキャラバン走行する「CARt-SAITAMA2023」や自転車で巡る「ART-CHARIアーチャリ」によって、現代アートを市民にとってより身近な存在とする取り組むを進める。

CARt Camp&Caravan@さいたまトリエンナーレ2016(2016年11月)

 アート・コーディネーターの松永康は、「創発inさいたま」と題し、文化施設で行われる文化芸術事業のほか、エリア周辺の商店街や企業とも連携して、さいたま文化の発信、街の活性化の実現を目指す。

 市民、市民とアーティスト、アーティストと地域が交流する機会を創出する「共につくる、参加する」市民参加型の芸術祭として、メイン会場以外にもさいたま市内で広く開催される「さいたま国際芸術祭2023」。文化芸術都市としての顔をどう描いていくか。60日の間、日々変わり続ける芸術祭を実現するために、着々と準備が進められている。

メイン会場外観。「旧市民会館おおみや」は、1970年から2022年3月まで“市民のハレの舞台”を支え、多くの人々に親しまれた劇場

編集部

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