観客のアクションにより展覧会が完成する
まず、会場の入り口には濃紺に塗られた壁のような木製の構造物とリュックサックが置かれている。ひと目見ると壁面のようであるが、これはれっきとした会場の入り口だ。観客はこの入り口をどうにかして開き、その驚きとともに会場へと入ることになる。ここからすでに飯川の作品《デコレータークラブ─配置・調整・周遊》(2026)が始まっている。

展示室に入っても、木製の構造物がその空間の大半を支配しており、強い圧迫感がある。その片隅にスポーツバッグがまるで誰かの忘れ物のようにさり気なく置かれているが、これも飯川の作品だ。タイトルを記すと実地での体験性が削がれてしまうのでここでは書かないが、誰かの忘れ物かもしれないので監視員に届け出てみるのもいいだろう。

この先の展示室にも、《デコレータークラブ─配置・調整・周遊》に対してなんらかのアクションをすることで進むになるが、それは展示室の空間に混乱をもたらす経験でもあり、来場者はその困惑を楽しみながら受け入れることになるだろう。飯川は「過去に本館を訪れたことがあり、展示室の構造を記憶している人ほど混乱するかもしれない」と語る。既存の空間の認識が巨大な作品によってずらされる体験がもたらされる。

《デコレータークラブ─配置・調整・周遊》に対してアクションを繰り返していくと、複数の作品が並んだ展示室にたどり着く。ここには数点のドローイングとともに、スポーツバッグが乗ったキャリーカートがいくつか置かれている。このキャリーカートは作品《デコレータークラブ─0人もしくは1人以上の観客に向けて》(2026)で、観客は本作を、本展と会期が重なっている飯川の個展「デコレータークラブ: 重いバッグの中身」(4月4日〜5月23日、KOTARO NUKAGA、東京・天王洲)や、αM2025–2026企画「立ち止まり振り返る、そして前を向く」(4月11日〜6月13日、gallery αM、東京・市ヶ谷)の会場へ運搬することができる。

かさばる重くて大きな荷物を運んで展覧会をはしごするその労力そのものが本作の主題といえ、他者に足を運んでもらい「観客」となってもらわなければ成立しない展覧会で、アーティストはどのような対価を与えられるのか、という飯川の問いが表れている。なお、本展会場にも、他会場から運んできた本作を置く場所が用意されている。
また、この展示室のドローイングには、本館の周囲で飯川が仕掛けた作品の概要を示唆するものもある。詳細は明かすことができないが、それを頼りに館外を探索してみるのもいいだろう。




















