創業の精神を継ぎ「美」を通してつながりをつくる。「shiseido art egg」が築いてきたもの【2/5ページ】

手厚いサポートとアーティスト同士のつながり

伊藤 応募時の展示プランは、その時点ではまだ具体性に欠ける部分もありますから、空間に落とし込み展示を実現させるにはどうすればいいか、根本のコンセプトから綿密に見直していきます。

眞家 練り上げた展示プランや作品は最終的に、展示設営のプロであるインストーラーとの協働で資生堂ギャラリーの空間に実現されていきます。その空間が、豊富な経験を持つ照明の専門家によって演出されると、展示の「見え」は格段に上がります。さらには展示や作品の撮影者や広報スタッフなど、各分野の専門家がサポートに入ります。毎年の展示経験者からは、「こんな展示技術があるのは知らなかった」「照明でこんなに見え方が変わるとは」「作品写真撮影のコツが知れたので今後も活用できる」など、展示の基本を学べてよかったという声が多く聞かれます。

眞家恵子

及川 さらなる「shiseido art egg」の特徴としては、幅広い層・立場の方々に展示を観てもらう機会があり、作品に対する多様なフィードバックを得られることも挙げられます。まずは応募時点で、私たちキュレーター全員が、すべての提案書類にじっくりと目を通します。

眞家 どの応募書類も熱量があって、どれを選べばいいのか毎回悩みに悩みます。また展示期間中には、資生堂の社員を対象とした鑑賞会などが企画され、毎回多くの人数が参加します。率直な感想が飛び交うので、生の声をアーティストが聞ける場になっているかと思います。さらには、各分野で活躍している方々に各個展を審査いただき「shiseido art egg賞」を選出しているのも、「新たな視点からフィードバックをもらえて学びになる」とアーティストからたいへん好評です。

及川 「shiseido art egg賞」の審査員には、いま現在の世の中に強く鋭い発信をしている方々にお願いをして、就いていただいています。美術業界に留まらず、様々な業界で活躍されているトップランナーに見ていただくことで、多様な視点から作品をとらえることができるようになると考えています。ただし審査員のうちひとりは、資生堂ギャラリーで展示の経験のある方に入っていただきます。この空間で展示することの難しさと苦労を熟知した方からもアドバイスをいただきたいので。

伊藤 審査員の方々とアーティストは、内覧会や展示説明会など、何度か接する機会を設けています。これは、他ジャンルのクリエイティブシーンで活躍する方々とインタラクティブな関係性が生まれれば、今後も力強く表現活動をしていくきっかけになるだろうと考えているからです。

及川 広く社会に向けて発信する表現者として、羽ばたいてもらえたらというのが私たちの願いです。もちろんアート関連の世界で注目してもらうことにも注力していきますが。その点「shiseido art egg」は、回を重ねるごとに関係者がチェックすべき存在になっているようです。他所のキュレーターやコーディネーターら美術関係者が観に来られて、他会場での企画に結びつくこともしばしばです。私は資生堂に入社する前、美術館に勤めていましたが、当時、資生堂アートエッグの展示にはなるべく足を運んでいました。「こんな新しい作家が、こんな展示を展開するのか……」などと毎回驚かされたものでした。

眞家 もうひとつ「shiseido art egg」の特徴を付け加えますと、展示をするアーティスト3名が、毎年、とても仲良しになるんです(笑)。「同窓生」的な連帯感で結ばれるといいますか。先般はこれまでの受賞者に声をかけて、このギャラリーを会場にして「同窓会」を開きました。これが想像以上にみなさんに喜んでいただき、連帯感を深めていただきました。参加いただいたアーティストいわく、「アーティストは孤独なんです。こういう機会があるのはすごくうれしい」とのこと。今後も「shiseido art egg」の輪を広げていって、アーティスト同士のネットワークづくりにも貢献していきたいと思っています。

編集部

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