創業の精神を継ぎ「美」を通してつながりをつくる。「shiseido art egg」が築いてきたもの

新進アーティストを支援する公募プログラムとして、資生堂によって毎年開かれている「shiseido art egg」。今年は第18回として、大東忍、すずえり(鈴木英倫子)、平田尚也の3名が資生堂ギャラリーでそれぞれ個展を開催する。これを前に、各展示を担当するキュレーターが、「shiseido art egg」の全貌と現在地を、アーティストたちが展示の展望を語った。

文・聞き手=山内宏泰

 新進アーティストを応援する公募プログラムとして、資生堂によって毎年開かれているのが「shiseido art egg」だ。新たな美の可能性を押し広げるアーティストに個展開催の場を提供し、サポートを続けてきた。2025年も第18回として、多数の応募者から選出された大東忍、すずえり、平田尚也の3名が、資生堂ギャラリーでそれぞれ個展を開催する運びとなった。

 個展終了後には、新しい価値創造を最も感じさせたアーティストに「shiseido art egg賞」が授与される。本年のこの審査には、建築家・永山祐子、美学者・星野太、美術家・村山悟郎と異なるクリエイティブシーンのトップランナーがあたる。各個展を担当する資生堂ギャラリーのキュレーター眞家恵子(大東忍展担当)、及川昌樹(すずえり展担当)、伊藤賢一朗(平田尚也展担当)の3名が、「shiseido art egg」の全貌と現在地を明らかにする。また個展に臨む3名のアーティストには、「shiseido art egg」との関わりや展示への思いを聞いた。

資生堂初代社長の意思を継いで

資生堂ギャラリーのキュレーターである眞家恵子、及川昌樹、伊藤賢一朗

眞家恵子(以下、眞家) 2006年に始まった「shiseido art egg」は今回が18回目となります。 これまでの応募総数が5824件、前回(2024年)までの来場者数が約17万3993人と多くの方々に注目いただいており、ありがたいかぎりです。

及川昌樹(以下、及川) 選出された3名のアーティストが展覧会を開くのは資生堂ギャラリーです。資生堂初代社長の福原信三が1919年に創設した、現存する日本最古のギャラリーと言われています。

伊藤賢一朗(以下、伊藤) 100年以上にわたり資生堂が運営し続け、日本の美術史に名を刻むアーティストが展示をしてきた場です。これから世に出ていこうとするアーティストにとって、それなりの緊張感と意気込みを感じてもらえる空間ではないかと思っています。

眞家 資生堂ギャラリーは草創期、当代切ってのアーティストや文化人たちが集うサロンにもなっており、 新しいカルチャーの発信源だったといいます。また、福原信三自身が画家になりたかったこともあって、まだ評価の定まらない若き芸術家たちに、積極的に発表の機会を提供していました。その精神が受け継がれ、いま「shiseido art egg」として体現されているといえます。

及川 そうした由緒ある空間であることとは別に、現在の資生堂ギャラリーは空間的にかなり特殊なつくりになっています。5メートル超の天井高を持つ大小の空間と回廊状階段の踊り場から成っていて、展示を構成するのはなかなか難しい。ベテラン作家でも頭を悩ますことが多いので、経験値がまだ少ない新進の作家となると、苦戦は必至です。

第17回「shiseido art egg」 野村在展
撮影=加藤健

伊藤 「shiseido art egg」に臨むアーティストは皆、大小の展示室と踊り場の3つの関係性をどう処理するか、考え抜くこととなります。どこにどういう作品をインストールし、どんな展示構成にするのか、さらにはそもそもどんな作品をつくればいいのか深く自問せざるを得ませんが、その過程を経ると、空間構成力も創作力も格段にアップするのもたしかです。資生堂ギャラリーの空間をうまく生かすことができれば、さらに大きな場所で展覧会をする足がかりにもきっとなるでしょう。

伊藤賢一朗

眞家 「shiseido art egg」を、全力で挑む甲斐のある「ひとつの壁」と思ってもらえればいいですね。もちろんその際、ひとりで悩む必要はありません。「shiseido art egg」は場所と機会だけお渡しするものではなく、できるかぎり手厚いサポートを提供する態勢も整えていますから。

及川 様々な面からサポートをしていきますが、まずはキュレーターが担当としてつき、ともに展示をつくり上げていく点は特徴的です。応募時の展示計画内容を精査し、練り込んでいくところから二人三脚で進みます。

及川昌樹

編集部

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