なぜ、ジェフ・クーンズは「キッチュ」を愛し続けるのか?【3/3ページ】

キッチュも、欲望も、すべてを受け入れる場所へ

 出展作であるキッチュな特質を強調する彫刻作品や鏡、イメージを無差別に取り込んだ絵画には、趣味や欲望へのジャッジをやめ、その人自身を受け止めるべきだという作家の姿勢が体現されている。この意味で本展は、ある種の器であると言えるだろう。そこではどのような人も、ものも受け入れられ、そして撹拌される。このとき、アーティストも、作品も、あらゆる鑑賞者も、同列の位置に置かれるのである。

 現在71歳、美術界のトップを走り続けてきたジェフ・クーンズ。彼にとって、これまでの最高傑作とはなんだろうか。

 「まだ本当につくりたいものはつくっていません。徐々に近づいている気はしていますが、もっとできると感じています。もちろんこれまでの制作については、いずれも限界まで力を注いだことに誇りをもっていますし、それによって人として、アーティストとして成長してきました。私はいま、どれほどの奥深さ、そして意味を人生経験のなかに見出すことができるかに、一層の関心をもっています」。

 展示室の中央には「EQUILIBRIUM」シリーズの水槽に浮かんだバスケットボールの作品がある。水面がちょうどボールの中央に位置するように、物理学者に協力を依頼して実現したものであるが、聞けばこの状態は永遠に続くものではなく、定期的に調整しなければ次第にバランスを失うという。ふと、これはクーンズの肖像なのではないかと思った。様々な実践のなかで、浮きつ、沈みつも自らの理想をひたすら追い求め続けるアーティストの姿は、揺れ動きながら完璧な平衡状態を目指すバスケットボールのように、危ういイノセンスを孕みつつも、強烈なエネルギーを放っている。

エスパス ルイ・ヴィトン大阪での展示風景。左壁は《Landscape (Tree)Ⅱ》(2007)、中央は《Three Ball 50/50 Tank》(1985)、右壁は《Bracelet》(1995-98) © Jeff Koons Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris Photo ©︎ Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

編集部

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