リサ・ラーソンとは、どんなアーティスト?
丸みのあるころんとしたフォルムのライオンや、姿も表情もユニークな猫のフィギュアで有名なスウェーデンの陶芸家リサ・ラーソン(1931〜2024)。日本では、彼女の作品やイラストをもとにした文房具や日用品が広く販売されていることから、「かわいい北欧雑貨の人」とのイメージが強いかもしれない。が、本国では陶芸界を代表するアーティストとして知られる。
1931年にスウェーデンの南部に生まれ、大学で陶芸を学んだ後、国内最大の製陶工場グスタフスベリに入社。ほどなくしてその輝かしいキャリアが始まるのだが、彼女の才能にいち早く目をつけたのが、同社でアートディレクターを務めていたスティグ・リンドベリである。リンドベリは戦後、北欧デザインが世界的に評価されていく時代に、画期的なテーブルウェアをデザインしてスウェーデン陶芸を牽引し、陶芸のみならずテキスタイルやグラフィックデザインなど幅広い分野で才能を発揮した人物である。
当時グスタフスベリでは、量産できるアート作品の可能性を模索しており、リンドベリの指揮のもと、若く有望なアーティストが集められ自由に創作活動をしていた。リサがつくった小さな猫を見たリンドベリがシリーズ展開するようにとアドバイスしたところ、3種類の猫と、犬やキツネなどのフィギュアからなる「小さな動物園」シリーズが生まれ、商業的にも大成功を収めたのだった。

1950年代後半のスウェーデンでは「より豊かな日常」を謳い、家具や食器など暮らしを彩る優れたデザインへの需要が高まっていた。新聞はアートや工芸品について取り上げることも多く、リサの作品はそうしたニーズに応えるかのように、「誰もが手にしやすいアート」として歓迎された。各家庭で愛された動物や子供のフィギュアをはじめ、芸術性の高い花器やプレート、キャンドルスタンドといったアートウェア、陶板作品も多く手掛け、リンドベリとともにグスタフスベリの黄金期を支えていったのである。
グスタフスベリのアトリエでは、アーティストとして一点ものの作品=ユニークピースをつくる自由も認められていた。ユニークピースは商業用デザインとは異なり、製作工程での制約がないため、より自由につくることができる。職業デザイナーとしての仕事と、アーティストとしての創作を行き来しながら、リサ・ラーソンは陶芸家として唯一無二の存在となっていった。

愛らしさを超えて議論を呼ぶ
リサ・ラーソンの名を批評家にも知らしめたのが、1956年に発表された「ABC少女」シリーズである。ふっくらとした体型の少女が寝そべったり、足を組んだポーズで本を読む愛らしいフィギュアで、 5タイプの少女像にそれぞれAからEのアルファベットで始まる名前がつけられていた。このシリーズは飛ぶように売れたが、それまでの美の基準からは大きく外れた、ふくよかな少女のフォルムに発表当時は批判的な意見もあったという。

従来の価値観を覆した作品といえば、「社会討論」シリーズもある。ドレスを着た女性が、シルクハットをかぶった男性をバーベルのようにかつぎあげているオブジェで、帽子が落ちないようにと男性が両手でおさえている様子が笑いを誘う。ユーモアとともにメッセージ性も感じられる作風だが、リサ本人はとくにそうした意図はなかったようで、もともとプロトタイプでは男性が女性をかかげていたのが、量産するにあたってバランスがとりにくかったため男女を逆にしたとの裏話がある。ただ、作品が生まれた1960年代はスウェーデンで女性の社会進出や男女平等の思想が浸透していった時期であり、リサ自身も仕事と子育てを両立し、家庭では夫のグンナルも一緒に家事を担当していたというから、そうした環境が彼女の創作に影響を及ぼしたであろうとは想像できる。
リサの作品で個人的に見入ってしまうのは、子供や女性のフィギュアが着ている服のディテールである。ストライプや水玉模様などリサの作風によく合った柄もあれば、毛糸の帽子やコートなどスウェーデンの子どもらしい装いも見られる。またリサの作品でもっとも人気が高いとされる「世界の子どもたち」シリーズでは、民族衣装の特徴が巧みに表現されている。
「ABC少女」が着るドレスは、当初はストライプや幾何学模様が手描きされていたのが、作品がよく売れたことで、釉薬の上から転写紙を貼り付けて模様をつけるクロモジェニックプリント技法を用いた花柄模様もつくられた。陶芸の道を選ぶ前は、ファッションの世界で働くことを夢見ていたリサらしい表現であり、クロモジェニックプリントは「社会討論」シリーズなど、その後の作品でも繰り返し使われている。
リサに学ぶ、暮らしを愉しむ視点
イマジネーションにあふれるリサの多彩な作品群を見ていると、自由気ままに創作活動に没頭したアーティスト肌の人物のように思えるが、インタビューや資料を追っていくと、会社や顧客からのリクエストに応えようと奮闘する、まじめで勤勉な一面がうかがえる。グスタフスベリで絵付け職人の多くを占めていた女性たちの仕事を確保したい、そんな使命感もあったようだ。自分の作品で在庫を抱えてしまわないかと悩み、入社した当初は「転職することばかり考えていた」などと聞くと、その存在がどこか身近に思えてくる。

観察をするのが好きで、「暇さえあれば、道行く人をしょっちゅうスケッチしていた」と話すリサは、アイデアに困ることはなかったようだ。こちらに向かって手を伸ばす幼い子供の仕草や、ヨガをする人の手足の動き、小競り合いをするサッカー選手の姿からは、リサのまわりにあった日常やスウェーデンの暮らしが垣間見える。1972年につくられた、当時の財務大臣をモデルにしたフィギュアなどはまさに、どこからでも着想を得てしまうリサらしい作品といえるし、「ABC少女」や「社会討論」に見る時代性や批評性は、日々を観察し、世の中の流れを敏感に感じ取っていたリサだからこそ、自然に生まれた表現なのかもしれない。めずらしくブロンズでつくられた「アリ」という作品では、地面のアリをじっと見つめる子供の姿が表現されている。忙しない日常で大人が見過ごしているものにじっくりと見入る姿は、いくつになっても好奇心を失わなかったリサ本人にも重なる。
かわいいだけではない、ユニークで多様なリサの作品を見ていると、自分の目や感覚を頼りに日常をおもしろがる視点をもつことは、創作活動のみならず人生を豊かにするのだと感じる。家庭や社会の事情に飲み込まれそうになっても、かたわらにある小さな出来事をすくいとって形に残すことはできるし、それは主体的に生きることにつながるのだなと思う。ここ数年、日本では日記がブームといえるほど注目を集めていて、「日記作家」とよばれる古賀及子の本や、作家のくどうれいんによる『日記の練習』(NHK出版、2024)など日記の愉しみをつづる本がぞくぞく出版され、日常を読み、書き留めたいと思う人の輪が広がっているのを感じる。リサがどんな風に自分のまわりの世界を見ていたのか、作品に触れる機会があればぜひその視点にも注目してみてほしい。
ちなみにリサが晩年まで第一線で活躍した背景には、日本の存在があったことも見逃せない。あまりにも大きな人気を博した作品やアーティストがいつしか「時代遅れ」とされるように、グスタフスベリを去った後、リサにも忘れられた時代があった。だが、リサのフィギュアを見た日本のファンからの問い合わせで再びリサの創作活動は忙しくなっていく。日本人の「かわいい」を見つける目が、リサ・ラーソンというアーティストを再び表舞台へと引き戻し、本国での再評価にも結びつけたのである。
[参考文献]
ギセラ・エロン『リサ・ラーション作品集 スウェーデンからきた猫と天使たち』平石律子訳、ブルース・インターアクションズ、2008年。
『Scandinavian RETRO KLASSIKER LISA LARSON 日本語版』花水友子訳、FORMA PUBLISHING GROUP、2014年。
『リサ・ラーソン』実業之日本社 2014年。
なお今年は、リサ・ラーソンをはじめとするグスタフスベリのデザイナーの作品を通じて、その歴史と魅力を紹介する「スウェーデンのうつわ グスタフスベリのある暮らし」展が、静岡市美術館を皮切りに全国6会場(秋田、東京、松本、京都 ほか)で開催されるほか、9月18日にはリサのドキュメンタリー映画の上映も予定されている。
*本記事に掲載の作品はすべて展覧会「グスタフスベリのある暮らし」で出品されます。

























