トレイシー・エミンの故郷であり、《なぜ私はダンサーにならなかったのか》(1995)をはじめ彼女の初期作品の多くにモチーフとして登場するイングランド南東部ケント州のマーゲート。ロンドンからおよそ100キロの位置にある小都市を「アートの町」へと変貌させた存在のひとつが、ターナー・コンテンポラリーだ。そして同館は今年、開館15周年を迎えた。この15年で72本の展覧会を開催し、来館者数は延べ480万人を超える。地元にもたらした経済効果は1億ポンドにのぼるという。
ターナーも愛した美しい海辺の町
美術館の名は、その空の美しさに魅せられ、この地を何度も訪れたことで知られるJ.M.W.ターナーに由来する。マーゲートはターナーのみならず多くの芸術家を惹きつけてきた町であり、19世紀の産業革命期には、サセックス州のブライトンなどと並ぶ裕福層の夏の保養地として栄えた。

しかし1970年代に入ると、ヨーロッパの近隣諸国への格安パッケージツアーの普及を背景に観光客が激減し、高い失業率に苦しむようになる。そうしたなか、1995年にマーゲート再生のための文化的施策の構想が持ち上がり、さらに当時の労働党政権による「地方再生」政策の一環として、海を望む場所に新たな現代美術館を建設する計画が実現した。こうして2011年4月、ターナー・コンテンポラリーが開館する。建物を手がけたのはデイヴィッド・チッパーフィールドだ。チッパーフィールドはイギリスのウェスト・ヨークシャー州のヘップワース・ウェイクフィールドや、アメリカ・ミズーリ州のセントルイス美術館の建築を手がけたことでも知られ、2023年にはプリツカー建築賞を受賞している。

































