美術作品は商品なのか、あるいはマーケットとは切り離された存在であるべきなのかーーそんな問いに向き合ったドキュメンタリー映画『アートのお値段』が、8月より渋谷・ユーロスペースほかにてロードショーされる。
本作のメガホンをとったのは、建築家ルイス・カーンの息子であり、数々のドキュメンタリー映画を手がけるナサニエル・カーン。プロデューサーにはソロモン・R・グッゲンハイム財団の元会長、ジェニファー・ブレイ・ストックマンらが名を連ねる。
昨今、アートマーケットの世界では、史上最高額となる約508億円で落札されたレオナルド・ダ・ヴィンチの《サルバドール・ムンディ》や、落札された瞬間にシュレッダーにかけられたバンクシーの《愛はごみ箱の中に》、あるいは現存作家として過去最高額の約100億円を記録したジェフ・クーンズの《ラビット》など、話題に事欠くことがない。
アート・バーゼルとUBSのレポートによると、2018年の世界の美術品市場規模は、推計で約7兆5000億円であり、この10年間で2014年(682億ドル)に次ぐ2番目の数字を記録。またこの数字は、2008年と比べて9パーセント増加している。
マーケットが熱を帯びるいっぽう、こうした疑問を抱く人も多いだろう。「アートは商品なのか?」「誰がなんのために買っているのか?」「アートの値段とは何か?」
本作『アートのお値段』では、監督ナサニエル・カーンがアート界の関係者たちにこの疑問をダイレクトにぶつけていく。アーティストからはジェフ・クーンズ、ジョージ・コンド、マリリン・ミンター、そしてゲルハルト・リヒターらが登場。またオークションサイドからはサザビーズ、フィリップスなどの重要人物らが顔を出し、メガコレクターたちは自慢のコレクションを惜しげもなく披露している。そしてジェリー・サルツら評論家たちは、マーケットに対して厳しい言葉を投げかける。
「マーケットは切り離されて存在している。アートは関係ない」と語るコンド。「金は汚い」と断言するリヒター。美術館を「墓場」と呼び、オークションで個人コレクターたちが落札することを肯定するオークショニア。
様々な価値観が交錯する本作。ナサニエル・カーンはこのようなコメントを寄せている。「観客がこの映画から学んでほしいことがひとつあるとすれば、それはあらためて目を見開き、思うがままにアートを見ることだ。映画に登場する人たちは、各々のやり方でそれを教えてくれた。彼らが意図したかどうかは知らないがもうひとつ私が学んだことは、市場がなんと言おうとも、実際には価値と価格の間に本質的な関係性がほとんどないということだ」。
本作は、アートとマネーの関係性を考えるうえで、かっこうの素材となるだろう。