なぜ、ジェフ・クーンズは「キッチュ」を愛し続けるのか?【2/3ページ】

反射と反省──素材が生む「no judgement」の空間

「ガゴシアン・ギャラリーの個展(*1)で発表している『PORCELAIN』シリーズでも、セルフ・アクセプタンスは核になっています。ここでは陶器のオブジェをステンレス・スチールに変換し、『reflection(反射)』の効果を用いています。鑑賞者が反射するとき、その人が生きる物語や経験すべてが映し出され、作品中で活性化されるのです」。

 クーンズはこれまでの制作でも、反射する素材を数多く用いている。本展の《Little Girl》(1988)は鏡の作品で、幼い少女のフォルムはちりばめられた花の装飾とともに鑑賞者に心地よさを与えるが、いっぽうでそれを享受する人の姿は完璧に仕上げられた鏡面に容赦なく映し出される。「reflection」はまた、哲学の文脈では「反省」とも訳され(*2)、反射する素材は、ポップなイメージを好む私たちの欲望がどのようなものであるかを見つめる機会をつくり出す。

 「付け加えると、輝く素材はその表面に映し出すものについて『no judgement(価値判断をしない)』であり、すべてを受け止めます」。

 「no judgement」はクーンズがしばしば用いる表現であり、本展では絵画作品に関連を見ることができる。「HULK ELVIS」(2004-)シリーズの巨大な絵画2点では、玩具、雑誌や広告の1ページを思わせる商業的なイメージなどが無差別に重ねられている。強烈な色彩と何層もの図像という情報の洪水のなかで、作品を見る人の「判断力」は宙吊りにされる。画面は素直な感性すらも入り込む余地はないほどに混沌としているが、洗練された「絵画」としての構図や色彩の評価軸からは解放されていると言えるだろう。

エスパス ルイ・ヴィトン大阪での展示風景
© Jeff Koons Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris Photo ©︎ Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

*1──「PORCELAIN」シリーズは2025年11月13日〜2026年2月28日、ガゴシアン・ギャラリー(ニューヨーク)で発表された。
*2──石塚正英・柴田隆行監修『哲学・思想翻訳語事典 【増補版】』論創社、2013年、223~224頁。

編集部

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