政治社会学者・前原志保が選ぶ、台湾の民主主義を知る5選。音楽からマンガ、シビックテックまで【2/2ページ】

4. 慈湖紀念雕塑公園

像:「独裁者」の銅像、民主主義はどうする?

 民主化した社会は、「独裁者」の銅像をどうすればいいのだろう。壊すのか、撤去するのか、それとも過去の一部として残すのか。台湾では権威主義体制の時代、学校や役所、公園など至るところに蔣介石の像が置かれていた。民主化したからといって、それらが一斉に撤去されたわけではない。民主化後も多くの像が公共空間に残り、その後、移行期正義が進むなかで、徐々に撤去や移設の対象となっていった。

慈湖紀念雕塑公園に集められた蔣介石像群。民主化後、台湾各地の学校や公共施設などから撤去された像が同園に移設されてきた。 撮影:阿道/CC BY-SA 4.0

 桃園市の慈湖は、蔣介石が故郷の浙江省渓口鎮に似ているとして好み、別邸にあたる「行館」を置いた場所で、死後にはその棺が安置された、蔣介石と深いゆかりを持つ場所である。その一角にある慈湖紀念雕塑公園には、民主化後、学校や役所などで役割を終えた蔣介石像が各地から寄贈され、現在では約200体が集まっている。立像、胸像、座像など、かつて別々の場所で権威を示していた像が一ヶ所に並ぶ光景は壮観であると同時に、どこかシュールでもある。置かれる場所が変わるだけで、像が持つ意味も変わって見える。これだけの像が集まって初めて気づくこともある。一つひとつの顔を見比べると、本当に同じ人物をモデルにしたのかと思うほど、違っていて面白い。

 蔣介石の像といえば、台北の中正紀念堂も忘れることはできない。蔣介石を顕彰するためにつくられた巨大な建築には、現在も巨大な蔣介石像が鎮座する。そのいっぽう、館内には蔣介石の生涯と中華民国の歴史を紹介する展示と、白色テロや民主化運動など、台湾の人々が自由と民主主義を獲得してきた歩みを紹介する展示が同時に存在する。かつて「偉大な指導者」を記憶するためにつくられた空間に、指導者を顕彰する記憶と、その体制に抑圧された人々の記憶が同居しているのである。しかも、その前に広がる広場は、民主化後、数々の社会運動や市民集会の舞台となってきた。権力を記念するためにつくられた空間が、権力に異議を唱える市民の空間にもなった。私には、そこに台湾らしいブラックユーモアさえ感じられる。相反するふたつの記憶があえて同じ場所にあるからこそ、見えてくるものがあるからだ。

 民主主義とは、過去をすべて破壊することでも、そのまま保存することでもないのかもしれない。誰の像をどこに置き、何を展示し、その歴史をどう語るのか。それを問い直し、過去の意味を更新し続けることもまた、民主主義なのである。

住所:桃園市大溪区復興路一段1097号
開園時間:24時間
入園料:無料
ウェブサイト:桃園観光公式サイト「慈湖紀念雕塑公園」

5. g0v(ガブ・ゼロ)

コード:民主主義を、自分たちでプログラムする

 政府のやっていることがわかりにくい。必要な情報が見つからない。社会にこんな仕組みがあったらいいのに――。そんなとき、政府が変えてくれるのを待つのではなく、「だったら、自分たちでつくってしまおう」と考える人たちが台湾にはいる。2012年に始まったシビックテックのコミュニティ、g0v(ガブ・ゼロ)だ。 その名前もユニークだ。「gov(government=政府)」の「o」を数字の「0」に置き換えたものだ。そこには、政府の役割を0から見直すという意味と、0と1で構成されるデジタルの世界に生きる世代のビジョンが込められている。 g0vでは、プログラマーやデザイナー、研究者、活動家など様々な人が参加し、それぞれが社会のなかで気づいた問題を持ち寄り、仲間を集めてプロジェクトを立ち上げていく。例えば、複雑な中央政府の予算を図や表でわかりやすく可視化したり、政治家や選挙に関する情報を見やすくしたりしてきた。定期的に開かれるハッカソン(様々な人が集まり、アイデアを持ち寄って実際にプロジェクトをつくるイベント)は、そうした活動の重要な場となっている。

g0v Summit 2026の様子。 Courtesy of g0v.tw/CC BY 4.0

 合言葉のひとつは、「なぜ誰もこれをやらないのか、と聞くな。『誰も』とはあなたのことだ」。問題を見つけた人がまず手を動かし、仲間を集め、解決するための道具をつくっていく。 いっぽう、政府の側にも、市民がインターネットを通じて政策形成に参加する仕組みがある。その代表がオンライン政策参加プラットフォーム「JOIN(公共政策網路參與平臺)」だ。市民が公共政策について提案し、60日以内に5000人の賛同を集めれば、政府の所管機関が正式に検討し、回答する。政治家や行政があらかじめ認識している問題だけでなく、市民一人ひとりの「困った」を政治課題として可視化する仕組みである。

 g0vとJOINが見せるのは、民主主義を完成した制度ではなく、様々な背景を持つ人びとが参加しながら、つくり変えていく仕組みとして捉える台湾の姿である。選挙で一票を投じたら次の選挙まで政治を政治家に任せる、というだけではない。不便なら直す。足りなければつくる。うまくいかなければ、また書き換える。成功もするし、失敗もする。民主主義もまた、誰もが参加しながら更新していく「開発途中」のプロジェクトなのだ。

始動:2012年
形態:シビックテック・コミュニティ
参加:オープン
ウェブサイト:g0v.tw
関連:公共政策網路參與平臺「JOIN」

編集部

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