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「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展がついに日本上陸。圧倒的な夢の空間に没入する体験を

2017年のパリ・装飾芸術美術館を皮切りにロンドン、上海、ニューヨーク、ドーハで話題を集めてきた展覧会「クリスチャン・ディオール 夢のクチュリエ」が、日本に上陸。東京都現代美術館が「夢の空間」に変貌した。会期は12月21日〜2023年5月28日。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長) All photos by Daici Ano

「ディオールの夜会」展示風景より

 「圧倒的」。この展覧会を見れば、そんな言葉が誰もの頭の中に浮かぶだろう。パリ装飾芸術美術館で話題を集め、その後ロンドン、 ニューヨークと世界を巡回してきた「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展が、ついに東京に上陸した。

エントランスから一気に引き込まれる

 ファッションのみならずあらゆるカルチャーに影響を与えた伝説的なファッションデザイナー、クリスチャン・ディオール。本展は、そのディオールが1946年に創設したクチュールメゾン「ディオール」の創設70周年を機にスタートしたプロジェクト。13ものセクションで、クリスチャン・ディオール、イヴ・サン=ローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、マリア・グラツィア・キウリといった歴代のクリエイティブ ディレクターたちの作品が並び、ディオールクチュールの全貌、そしてディオールと日本との関係をも紹介するものだ。

 開幕を前にピエトロ・ベッカーリ(クリスチャン ディオール クチュール 会長兼CEO)は本展に対し、「メゾンとしての愛、日本への愛にあふれたものとなった。クリスチャン・ディオールは日本文化を愛してやまなかった。本展は75年にわたるディオールの日本に対する愛を讃え、集約したものだ」と語っている。

展示風景より、クリスチャン・ディオールが1957年秋冬オートクチュールコレクションで手がけた「JAPON」も並ぶ

ディオールと日本をつなぐキュレーション

 本展で特筆すべきは、そのキュレーションと会場デザインの2つ。まずはキュレーションから見ていこう。担当したのは、パリ展から「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」を手がけてきたフロランス・ミュラーだ。ディオールの75年を超える情熱にスポットを当てた本展は、膨大な資料を保管するディオール ヘリテージのアーカイヴから構成されている。ミュラーはこうしたヘリテージを調査し、チームで何千枚ものドレスから展示作品を選定した。

 選定基準は「展覧会の物語をどう描くかというところ」であり、「会場のスケールなどの条件にあわせて構成し、そこからまた削ぎ落としていった」と話す。

展示風景より、左が「BAR(バー)スーツ」

 東京展ならではのキュレーションも光る。ミュラーは本展のためにディオールと日本の関係について調査を行ったという。その結果は会場、とくに「ディオールと日本」のセクションに結実している。「クリスチャン・ディオールがいかに日本を愛しているかがわかる章になっている。じつはディオールの家族は日本の文化に囲まれており、歌麿の浮世絵などもあった」。

 もちろんこの章以外にも、会場の随所に日本とディオールのつながりを感じさせる要素が散りばめられているので、ぜひ目を凝らしてみてほしい。

「ディオールと日本」展示風景より
「ディオールと日本」展示風景より

 キュレーション面で本展を特徴づけるものとして、東京都現代美術館コレクションとの共演も挙げられるだろう。ディオール側からの提案によって実現した美術館との協業。ミュラーは「光栄なことだった。絵画とドレスには共通する美があふれており、両者は対話できると考えた」とその意図について語る。

 展示に選ばれたのは7作家16作品。戦前から現代まで、クチュールと同じように時代の様相を反映した美術作品が「ミス ディオールの庭」を中心とした会場に散りばめられている。とくに織物から糸を引き抜き再構成した手塚愛子の《Mutterkuchen-01(あなたに帰る場所はありますか、もしそうなら、それは偶然?それとも必然?)》は、本展が収蔵後の初展示。ディオールのドレス、空間と見事な共鳴を果たしていると言えるだろう。

展示風景より、右が手塚愛子《Mutterkuchen-01(あなたに帰る場所はありますか、もしそうなら、それは偶然?それとも必然?)》(2018)

ストーリーテリングに寄与する会場デザイン

 セノグラフィーもこの展覧会を唯一無二のものにしている。東京展の会場は、OMAのパートナーとして国際的に活躍する気鋭の建築家・重松象平が日本文化へのオマージュとしてデザインした。ディオールと日本の見事な融合を見せた重松は、「日本人建築家としてこの素晴らしいプロジェクトに関われたことを誇りに思う」としながら、会場デザインにかける想いについて次のように振り返る。

 「クリスチャン・ディオールはファッションデザイナーになる前に建築家を志していた。オートクチュールのつくり方は建築とも親和性がある。オートクチュールは特定の人に対するユニークなものとしてつくられるが、建築もまたオンリーワンなもの。オートクチュールも建築も、人がいて、人に纏われて初めて成り立つアートフォーム。その共通点を意識し会場をデザインした」。

展示風景より

 ディオールの「ニュールック」を象徴する「BAR(バー)スーツ」を中心としたモノクロームの部屋から始まり、ねぶた祭りに使用される和紙を大胆に使った「ディオールと日本」、ディオール歴代のクリエイティブ ディレクターの作品が個展形式で並ぶ荘厳な空間、クチュールをつくるために実際につくられたモックアップが囲む真っ白な「ディオールのアトリエ」、無数の花が刺繍されたドレス「Miss Dior」をはじめとする花から着想された様々なドレスが日本庭園をイメージした空間に並ぶ優美な「ミス ディオールの庭」、ヴンダーカンマー(驚異の部屋)から着想された「レディ ディオール」など、すべての展示室が異なるデザインと表情を持ち、それぞれが展覧会のストーリーテリングに寄与している。

モックアップに囲まれる「ディオールのアトリエ」
虹のようにグラデーションでドレスをはじめとするファッションピースが並ぶ「コロラマ」
「Miss Dior」を核とした「ミス ディオールの庭」。天井から下がる藤の花を思わせる切り絵は柴田あゆみが手がけた
「Miss Dior」を核とした「ミス ディオールの庭」。天井から下がる藤の花を思わせる切り絵は柴田あゆみが手がけた
マリリン・モンローがまとったドレスは宇宙のような空間に
名和晃平や宮永愛子ら数々の日本人アーティストが手がけた「レディ ディオール」が並ぶ空間はヴンダーカンマー(驚異の部屋)から着想された

 なかでも、東京都現代美術館の特徴である地下と上階をつなぐ吹き抜けのアトリウムを大胆に使用した「ディオールの夜会」は圧巻だ。夜会に欠かせない華やかなドレスたち。ここではヘリテージから現代まで、35体ものドレスが大階段のような舞台に立ち並び、厳かな音楽、時の移ろいを示すプロジェクション・マッピングとともに鑑賞者に向かい合う。

 重松はこの大空間を「どう使うかは過去の展覧会をリサーチした。空間全体を有効的に使いたいと考えた」としてる。その言葉通り、地階と上階、見るフロアによってまった異なる印象を与えてくれる空間デザインとなった。

「ディオールの夜会」展示風景より

 またこの展示室には、本展メインビジュアルを担当した写真家・高木由利子による大判の写真作品も展示されている。これまで数多くのファッションフォトを手がけてきた高木が「まったく違う次元のものだと感じた」というディオールのオートクチュール。高木の写真からはエモーショナルな動きを感じられる。向かい立つドレスたちと写真の、絶妙な共鳴を楽しんでほしい。

展示風景より、高木由利子による写真作品

 メゾンの魂であり、人々に夢を与え続けてきたクリスチャン・ディオールのオートクチュール。本展「夢のアトリエ」はメゾンの卓越した技術力・表現力を示しながら、人々を夢の中に誘うような抒情的な空間となっている。クチュールや建築と同じく、本展も鑑賞者が身体を運んで初めて完成する展覧会と言えるだろう。

最終章「ディオールと世界」では世界各地の文化からインスピレーションを得たドレスが並ぶ

編集部

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