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アートと気候危機のいま vol.9 地球のいまを映す「泥」の物語──リッケ・ルター、気候危機を“翻訳”する

NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]設立メンバーのひとりであり、AITのグリーン・チーム リーダーでもあるロジャー・マクドナルドによる、気候危機とアートについて「いま」をわかりやすく紹介する連載。第9回は、デンマークのアーティスト、リッケ・ルターにインタビューから気候危機の時代におけるアーティストの実践をお届けする。*The English version is below the Japanese.

聞き手・文=ロジャー・マクドナルド インタビュー構成=木下悠 写真=リッケ・ルター

谷を下りフィヨルドへと至る道筋で、堆積物が大量に堆積している様子。ケカタ、グリーンランド
映画『Here's... Mud In Your Eye』(2026)より

「泥」を追いかけはじめたリッケ・ルター

「Dust & Flow」展(コペンハーゲン、2025)の展示風景

 「泥は、いまの地球そのもの」──リッケ・ルターはそう語る。かつて安定していたはずの風景は、いまや押し寄せる泥とともに崩れ去る。自然破壊を目の当たりにした南米を起点に、日本、グリーンランドへと旅をしてきた彼女は、科学者とともに環境の変化を観察し、物語として再構成するというユニークなアプローチをとる。そのプロセスは、たんなる記録でも告発でもなく、未来に向けた静かな問いかけとなっている。アーティストが「地球の変容」と向き合う方法について、インタビューで話を聞いた。

 リッケ・ルターと私が初めてやり取りをしたのは、2004年、リッケが茨城県守谷市のARCUS(県が主催する芸術文化事業)でアーティスト・イン・レジデンスに参加していたときのことだった。そこでダンボール製ドームを制作したリッケは、完成後に作品を代官山のAITルームに移し、数ヶ月間ミーティングやイベントの場として使っていた。

2005年、代官山AITルームで使用されていたダンボール製ドーム

 その少し前までリッケが所属していたのが、デンマーク・コペンハーゲンを拠点とするアート・コレクティブ「N55」である。N55は、「モノを所有するのではなく、共有することが社会をよくする」という理念のもと、作品の材料の入手方法や設計図をマニュアルとして公開し、誰でも自由にコピーして再現できるようにしたことで知られる。1996年に創設されて以来、私はN55のマニュアルにとても興味を持っていた。

 2004年当時、N55を離れてリッケが新しく立ち上げたプラットフォーム「Learning Site」にも、N55の「オープンで協働的な姿勢」は確かに受け継がれていた。アーティストだけでなく、社会学者や都市計画家、弁護士など、異なる分野の人々が様々なアートを通して課題について探るのだという。

 2006年に私が「第1回シンガポール・ビエンナーレ」で共同キュレーターを務めた際には、リッケをシンガポールに招き、公営住宅の共用スペースに「動くキノコ農場」をつくるというプロジェクトをともに実現させた。

 そしてここ10年ほどのリッケの関心は、地球システムや環境破壊、気候危機に強く向かっている。このインタビューでも言及されるが、リッケはポストドクター研究者として世界各地の第一線の気候・地球科学者とともに多くの時間を過ごし、そこから生まれる物語をもとに映画やアート作品をつくり続けている。

 今回の対話では、不安定な時代を映すメタファーとしての「泥」がどんな意味を持つのか、アーティストは科学者からどのように学び、ストーリーテラーとして地球的な危機にどう関わっていけるのかについて話し合った。 

編集部