天然ゴム、陶器、ガラス、織物など多様な素材を用いた具象彫刻を主に制作している、1976年生まれのフランシス・アップリチャード。そして、廃材を使った家具制作やインテリアデザインで知られる、同世代でもっとも革新的なデザイナーのひとり、1971年生まれのマルティーノ・ガンパー。この夫婦とは15年以上の付き合いがあり、2024年11月には長野で我が家に滞在してもらった。私の書斎で、アート、彼らの仕事、そして気候と生態系の危機についてインタビューし、話し合った。
気候や生物多様性の危機をとらえる、長期的かつ現実的な視点とは?
──現在、気候や生物多様性の危機についてどのように認識し、考えていますか?
フランシス・アップリチャード(以下、アップリチャード) 恐ろしいことだと思います。自分をなだめるためにやっていることのひとつは、世界を非常に長期的な視点でとらえようとすること。だからこそ、恐竜に関連した仕事を多くしているのかもしれません。この地球は過去にも大きな気候変動を経験してきました。今回のように人為的なものではなかったかもしれないけれど、過去にも大きな気候イベントがあったと知ることも大切です。長い視点で見れば、大規模な絶滅が再び起こるとしても、それは自然な流れなのかもしれない。そうとらえると、この問題について考えることが少し楽になります。そうでなければ、私たちがしていることがあまりにも恐ろしく、絶望的に感じられますから。

マルティーノ・ガンパー(以下、ガンパー) 1960〜70年代から、地球に対する新しい認識が生まれ、気候変動や汚染の影響が見え始め、感じられるようになったと思います。その時代から、「最悪のシナリオ」として世界が終わるという意識がありました。しかし、それは実現しなかったし、世界は終わっていません。とはいえ、私たちの社会は衰退しているかもしれないし、文明はたしかに大きな挑戦に直面している。とくに動植物にとってはね。しかし、地球にとっては、それは連続した変化の一部で、この100年間で加速しているだけなんです。何百万年もの時間をかけて起こっていたことが、いまでは急速に進んでいるように見える。それはたしかに恐ろしいことですが、私たちはその創造者であり、その担い手でもあります。
結局のところ、誰を「救おう」としているのかによると思います。それは地球そのものなのか、それとも人間なのか。なぜなら、私たちは非常に短期的な時間スパンで物事を考えるからです。例えば人の一生は数年、数ヶ月、数日といった単位です。でも、種の視点から見るとどうでしょう? 私たちの種は失われるかもしれないし、何百万ものほかの種も失われるかもしれません。しかし、つねに突然変異が起こり、新しい種が出現する可能性もあるんです。

──おふたりとも、長期的な視点を持ちながらも、とても切実に直近の危機感を感じているんですね。
ガンパー ただ「自分が死んでしまう」「周囲のすべてが死んでしまう」と考えるのは必ずしも助けにならないと思います。それは人々を動かす戦略としては適切ではないかなと。それだと、多くの人が「そんなことは起こらない」「実際に起こらなかった」と言って、これまで通り普通に振る舞い続けるでしょうから。しかし、明らかに事態は日々、世界中で私たちの生活に影響を及ぼしている。だからこそ、変わらなければならない。変わるべきだったではなく、これから変わる必要があります。ただ、私たちがいま知っている「世界」を救うことはできないかもしれない。そもそも、「世界を救う」というのはとてもロマンチックな考え方ですよね。しかし、私たちが思う「昔の世界」というのも、例えば150年前と現在ではまったく違う世界でした。だからこそ、いまの自分自身の生活をどう変えるかが大切だと思います。
──現実的であろうとしているんですね?
ガンパー そうですね。なぜなら、世界を自分の肩に背負うことはできないと感じているので。
──私たちはこの世界にいて、すべての出来事の一部ですからね。
アップリチャード その通りで、私たちはそのなかにいます。そして、政治家が必ずしも世界を変えられるとは考えてません。彼らが私たちより多くの力を持っているとしても、ほとんどの政治家は責任ある行動をとっていないと思います。