アーティストでありながら、気候科学者の研究チームに参画
──災害をきっかけに泥に着目して以降、どのように活動を展開させていきましたか?
ルター 私はさらに、「泥が海へと流れ込むこと」に取り憑かれるようになりました。きっかけは、コロナ禍にグリーンランドへ向かったときのことです。音声記録を担当する予定だった娘が新型コロナウイルスに感染したために出発が1ヶ月遅れ、結果、冬が訪れて泥が凍ってしまい、私たちは氷に閉ざされ船の中に取り残されてしまいました。
軍が来て氷を割ってくれるのを待つあいだ、カナダ沿岸に漁に向かう機械技師と話す機会があったんです。彼は、新しい堆積物によって氷山に新しい色が見られるようになったことや、氷の中に新しい生物が入り込んでいることなどを語ってくれました。また、別の羊の管理会社の女性と話した際には、「人々がこれまでになかった病気にかかるようになった」と心配していました。食べ物や水に堆積物が入り込んでいるからだ、と。そうして2人の話を聞いていくうちに、私は堆積物、つまり「泥」について考えるようになりました。

──海洋の「堆積物」に焦点を絞っていったのですね。かなり専門的な知見が必要そうです。
ルター ええ。なので私は、非常に著名な生物海洋学者で、地球システム科学の専門家であるキャサリン・リチャードソン(Katherine Richardson)にコンタクトを取りました。この分野を定着させようと30年間尽力してきた人物で、「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」(*6)の筆頭著者でもあります。
私はキャサリンに泥のことを話して、「何が起きているのか教えてほしい」と相談しました。ちょうどそのとき、彼女は地質学者と一緒にグリーンランドのあるケースに関して大きな研究助成を申請するところだったそうです。そこで私が「私の研究要旨もプロジェクトの一部として認めてくれませんか?」とお願いしたら、キャサリンは私がアーティストであることを面白がってか、快く受け入れてくれたんです。結果私は、アイスランド大学に拠点があるキャサリンの研究所「Research for Climate, Ocean and Sociology(気候・海洋・社会学の研究)」のメンバーとして迎えられました。
──それはアーティスト・イン・レジデンスのようなかたちでですか?
ルター いえ、「ポスドク(博士研究員)」という立場でした。でも実際のところはアーティスト・イン・レジデンスに近いですね。
──その研究所では、アーティストも受け入れているんですね。あなたは研究者ですが、いわゆる科学者というわけではないですよね?
ルター ええ、私は研究所でも少し変わった存在ではあると思います。でもこのプロジェクトには、作家や考古学者、humanure (*7)の研究者なども関わっているんですよ。

*6──人類が地球上で生存していくために守るべき、気候変動や生物多様性、海洋の酸性化などの9項目の限界値。2023年には、6項目が限界を超え、さらに2項目が限界に近づいていることが発表された。
*7──人間の排泄物を「再生可能な肥料」として扱う思想と実践。



















