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アートと気候危機のいま vol.9 地球のいまを映す「泥」の物語──リッケ・ルター、気候危機を“翻訳”する【2/7ページ】

気候危機と地球システムへのまなざし

──あなたはこの10年近く、人間が引き起こす環境破壊や気候危機、あるいは地球システムそのものに強く関心を向けて活動してきています。近年はとくにどんなことに注目していますか。

ルター 私は長年、風景や都市計画、土地所有、水資源へのアクセスといったテーマを扱ってきました。それらがやがて、土地を所有物ではなく変化する地形として捉える「風景の変容」という現在のテーマにつながっていきました。

 ターニングポイントになったのが、2015年にブラジル・サンパウロ南部を訪れた際、ブラジル史上最大規模の災害が発生したことです(*1)。決壊した廃水用ダムから流れ出た有害な泥が、川を通じて大量に海に流れ込むのを見て、私の思考にある大きな変化が生まれました。以降、私は「グローバル・コモンズ」(*2)を扱った作品を制作するようになり、なかでも公海(*3)に着目して、「泥」を追いかけ始めたんです。

Overspill: Universal Map - Measures of Uncertainty 布にプリント(オリジナルはタイルにプリント) 244×420 第32回サンパウロ・ビエンナーレでの展示、サンパウロ Courtesy of the artist
Map 5, The Sand Bank, The New World Order: Sand 2018 布にプリント、244×420 Courtesy of the artist

──ブラジルでのダム決壊は、まさに人的災害というほかないですね。

ルター この災害について調べていく過程で閉鎖区域に入ろうとして、ブラジルでいかにおかしなことが起きているかに気がつきました。入域許可を得ていたのに、後になって許可を取り消されてしまった。そのときは、弁護士が交渉してどうにか中に入ることができたんですが、結局、2019年にも別の場所でまた同じような災害が起きてしまったんです(*4)。

 その後、2019年に日本で撮影することになって、ちょうどそのとき、非常に勢力の強い台風が上陸しました(*5)。東京の街は真っ暗で、どこにも出かけられず、テレビをつけると被災地の人たちが泥をかき出している映像ばかり。当時私たちは泥の撮影で軍艦島に行く予定だったんですが、上陸地点が壊れてしまって、撮影計画をすべて変更せざるを得ませんでした。

1916年、日本で最初の超高層建築が、鉄筋コンクリートで長崎市端島(はしま)に建てられた 映画『コンクリート:偉大なる変容』(2020)より(01:02)
地球の気象が予測不能なパターンへと荒れ狂い、巨大な泥流が集まり流れ出す(日本、2019) 映画『コンクリート:偉大なる変容』(2020)より

──あのときは本当にひどかった。河川の氾濫や土砂災害などで何人も亡くなったんですよ。

ルター それは本当にお気の毒です。「風景」をコンクリートで固めてしまうと、泥や水が行き場を失ってしまうということなんです。

*1──資源世界大手ヴァーレ社の出資企業が運営する鉱山廃水用ダムが構造欠陥や管理不備により決壊、村を壊滅させ死者19人を出し、深刻な環境汚染を引き起こした。
*2──公海、南極圏、大気圏、宇宙空間などの人類の生存に不可欠な非国家領域。
*3──どの国の主権にも属さず、すべての国の自由な利用に開かれた海域のこと。
*4──ヴァーレ社の安全管理不足などによって、2019年1月25日に鉱山用ダムが崩壊、270人以上の死者・行方不明者と劣悪な環境汚染を引き起こした。
*5──記録的大雨により広い範囲で河川の氾濫が相次いだほか、⼟砂災害や浸⽔被害が発⽣した2019年10月の台風19号。

編集部