科学とアートを横断するリサーチの方法
──そうすると、あなたのリサーチというのは、そうした研究環境に身を置き、科学者たちと対話し、データを読み込んで、それを自分なりの枠組みで解釈し、作品に反映していく、ということになるのでしょうか?
ルター そうですね。だから博士号を取っておいて本当に良かったと思っています。あの過程で、こうした複雑な思考を理解するための道具を手に入れることができました。
とはいえ、非常に難しいチャレンジであることは確かです。キャサリンのようなトップ科学者のもとにいるとなおさら。キャサリンたちはとても寛容で、サポートもしてくれる。ですが同時に、求められるレベルもとても高いんです。数ヶ月経ってようやく「ああ、いまやっとついていけるようになったかも」と思えるようになったぐらいで。
──研究所での学びを、どのように作品へ発展させていったのでしょうか?
ルター あるとき、カリーナ・K・サンド(Karina Krarup Sand)という研究者と出会ったんです。カリーナは、エスケ・ウィラースレフ(Eske Willerslev)という有名な地質遺伝学者のチームの一員で、「環境DNA(eDNA)」(*8)に16年間取り組んできました。原子間力顕微鏡を使い、堆積物に含まれる非常に古いDNAの断片を画像化する。そして、どんな堆積物がDNAを保持しているか、どう切り離せば読み取れるかを研究しているんです。エスケたちはこの革新的な手法で、「深い時間」、つまり太古の生態系まで遡って読み取れるようになったんです。
カリーナと話していて話題になったのは、地滑りや洪水、浸食、海底、海面近くの水域のことでした。つまり、「泥」そのものが出てきたんですね。私が泥に強く興味を持っていることを伝えるとカリーナはとても喜んで、関連する論文を4本送ってくれたんです。論文は本当に難しかったけど、ちゃんと読みました。カリーナにもそう言ったら、「本当に読んだのね」と驚かれました。
そこからいろいろと話をして、ようやく「この2行は作品のスクリプトに使えるかも」と思えるような内容が見つかりました。あるいはもしかしたら、10行くらいは使えるかもしれない……と。それが私のやり方なんです。現場に入り込んで、理解できる範囲で情報を抽出し、それを自分の語りとして再構成する。

Courtesy of the artist
──なるほど。するとあなたの役割はある意味、複雑な科学的内容を人に伝えるサイエンス・コミュニケーターのようなものですか?
ルター いえ、それは違います。私はそのための専門的なバックグラウンドを持ちあわせてはいないので。私のやり方は、例えるなら黄色と青色を混ぜてオレンジ色をつくろうとするようなものです。キャサリンの研究とカリーナの研究を混ぜると、やっぱりオレンジ色ができる。そこから物語をつくることができるんです。私はそれを「ノンフィクションの物語」と定義しています。なかにはフィクションの要素も含まれていますが。
私たち人間がこの変化の真っ只中にいるいま、それをどう理解すればいいのか。とくに私は子供を持つ身として、それをどう語ればいいのか、必死で考えたいんです。「この世界とどう向き合えばいいの?」「どう生きていけばいいの?」。そういう問いに少しでも答えられるように。戦争についてもそうです。もちろん生活すべてにおいてではありませんが、つねに意識はしています。気候危機についても同じで、その「構成要素」を理解しようとしている。そしてそこから物語を組み立てていくのです。

──組み立てた物語は、その後どのように映像化していくのでしょうか?
ルター まず、映像素材を撮りためておいて、そのなかから必要な映像を選び、編集します。その後、ノートを見返しながら粗いスクリプトを書き、すべてが揃った段階で、パートナーであるジェイミー・ステイプルトンに渡します。ジェイミーが文章を洗練させてくれるので。
いうなれば、私がやっているのは科学的な内容を新しい物語へと「翻訳」していくプロセスなんですね。例えばいま、研究所のメンバーたちは『Nature』誌に論文を投稿していますが、その執筆にはもちろん私は関わることはできません。必要な科学的基礎を持っていないからです。でもいっぽうで、私はこの話を「別の言語」で語ることができる。その意味で、「翻訳」するプロセスに参加していると思っています。『Nature』には載らないかもしれないけど、『美術手帖』には載るかもしれませんしね(笑)。

*8──堆積物中の断片化したDNAを読み取ることで、過去の生態系を復元するアプローチ。



















