建築とアートを同時に楽しむ。「マツモト建築芸術祭2026 ADVANCE」第2期開幕レポート【5/5ページ】

城下町に点在する名建築

 松本の建築文化の豊かさを改めて感じさせるのが、松本城を中心に広がる城下町エリアだ。このエリアでは、江戸時代から続く歴史的建造物、大正・昭和期の洋風建築、さらには現代建築まで、幅広い時代の建物が展示会場となっている。

 なかでも注目したいのが、国の登録有形文化財に指定されている割烹 松本館だ。1890年創業の老舗料亭である同館は、1935年頃に現在の旧館が建てられた。2代目当主が東京の目黒雅叙園に感銘を受け、松本にも賓客をもてなす施設をつくりたいと考えたことが、その建築のきっかけになったという。設計監修を担ったのは、松本出身の彫刻家・太田南海。旧館2階にある99畳の大広間「鳳凰の間」には、太田による彫刻や金子嶺挙の天井画など、豪華な装飾が施されている。今回、この空間に作品を展開するのが、初参加となるチームラボだ。

チームラボ《世界は、統合されつつ、分割もされ、繰り返しつつ、いつも違う》(2013)

 展示されるのは、江戸時代の絵師・伊藤若冲の《鳥獣花木図屏風》《樹花鳥獣図屏風》に見られる「升目画」の技法をモチーフとした映像作品《世界は、統合されつつ、分割もされ、繰り返しつつ、いつも違う》(2013)。若冲の升目画は、画面を細かな升目に区切り、それぞれに色彩を施すことでイメージを構成している。個々の色の集合によって像が立ち上がるその手法は、デジタル画像を構成するピクセルにも通じる。江戸時代の絵画表現を現代のデジタル技術によって再解釈するチームラボの作品と、昭和初期の職人技が結集した鳳凰の間。異なる時代の技術と美意識が交差することになる。

 最後に紹介したいのが、松本市街地の上土通りに位置する下町会館だ。1928年に建てられた木造3階建ての看板建築を起源とするこの建物は、1980年代後半に老朽化による解体の危機に直面した。しかし、街並みを構成する重要な建築として保存が決まり、1995年に再生された。特徴的なのは、建物のファサードの一部を保存しながら、新しい鉄筋コンクリート造の建物と一体化させていることだ。街の記憶を残すことと、建物を現代の用途に適応させること。その両立を模索した建築でもある。

右手が下町会館

 ここに作品を見せるのは、ハワイ出身のアーティスト、マイケル・リキオ・ミング・ヒー・ホー。ホーは言語を主な素材とし、文字や文章を絵画や立体と組み合わせながら、読むことと見ることの境界を問い直す作品を制作してきた。今回展示される《YOU MAY FEEL ALONE》《TIME TO SHINE》《I DON'T WANT TO GO》(すべて2023)などは、2023年にKOTARO NUKAGAで開催された個展で制作された作品。興味深いのは、その制作方法にある。ホーは展示室の壁に直接言葉を書き込んだ後、壁の一部を切り取り、それを木製パネルに取り付けて作品とした。展覧会終了後、元の壁は修復されたが、切り取られた部分は独立した作品として残された。いわば、建築の一部が美術作品へと変わったと言える。

左から、《A SUNSET WORTH STARING AT》《YOU MAT FEEL ALONE》《I DON'T TO GO》(すべて2023)

 かつての建築の一部を残しながら、新たな建物として再生された下町会館。そこに別の建築から切り取られた壁が持ち込まれることで、建築と作品の境界、あるいは保存と変化の関係が改めて問われる。今回のマツモト建築芸術祭を象徴するような組み合わせと言えるだろう。

*

 歴史的な建物をただ展示会場として活用するだけでなく、アートを通してその建物の来歴や、街が抱える課題まで浮かび上がらせるマツモト建築芸術祭。建物は、その姿をとどめるだけで未来へと受け継がれるわけではない。そこに新たな人が訪れ、別の使い方が生まれ、歴史が読み直されることで、再び街のなかに生きた場所となる。今回の芸術祭は、アートがそうした建築の新たな可能性を開く手段となり得ることを示していると言えるだろう。