旧裁判所と刑務所。歴史の里で出会う社会と時間の表現
市街地から西へと移動すると、松本市歴史の里がある。歴史的建造物を移築・保存する野外博物館である同施設では、2つの建物が会場となっている。
そのひとつが、国の重要文化財に指定されている旧松本区裁判所庁舎だ。1908年に建設されたこの建物は、かつて松本城の二の丸御殿跡にあった裁判所を1982年に移築復元したもの。保存のきっかけとなったのは市民による運動であり、建築保存の歴史を伝える存在でもある。和風の大きな屋根や白漆喰の壁に、洋風の外壁やガラス窓を組み合わせた和洋折衷の建築は、明治期の近代化を物語っている。

その空間に展示されるのが、アーティストユニット・米谷健+ジュリアによる《最後の晩餐》(2014)だ。本展のメインビジュアルにも採用された同作は、全長約9メートルにおよぶ巨大な彫刻で、全体が塩によって制作されている。ここで用いられているのは、オーストラリアのマレー川流域で採取された塩だという。


同地域では、大規模農業に伴う森林伐採や灌漑などにより土壌の塩類化が進み、農業や河川環境に深刻な影響をもたらしてきた。米谷健+ジュリアは、こうした環境問題を背景に塩を用いた作品を制作。同作は現代の食料生産が自然環境に与える負荷や持続可能性に対する問いを内包しており、人間の社会秩序を支えてきた司法の場に、環境や食料をめぐる問題を提示する作品が置かれる。その取り合わせは、社会が何を守り、どのような未来を選び取るのかという問いにもつながる。
隣接する旧松本少年刑務所独居舎房では、写真家・佐々木修宏が作品を展示している。この建物は1953年に松本少年刑務所に建てられ、90年まで使われていた施設の一部を、94年に移築復元したもの。約3畳の独房が並ぶ空間には、鉄格子の付いた窓や頑丈な扉など、当時の施設の構造が残されている。

佐々木がここで発表するのは、鉄道をモチーフとした写真シリーズ「Passings」だ。駅のホームから通り過ぎる列車を流し撮りすることで、窓越しに見える乗客の何気ない姿を捉えた同シリーズ。背景が流れるいっぽう、車内の人々の表情や身振りが浮かび上がり、見知らぬ他者とすれ違う一瞬が写真のなかにとどめられている。移動の自由を制限された人々が過ごしていた場所に、移動する列車と、そのなかにいる人々の姿が現れる。閉ざされた空間に積み重なった長い時間と、列車が通り過ぎる一瞬の時間。対照的なふたつの時間感覚を重ねることで、建物が持つ歴史への新たなまなざしが生まれる。




















