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「志賀理江子 なぬもかぬも」展(青森県立美術館)開幕レポート。東北を眼差し続けた20年の集積【3/3ページ】

これからの未来を生きていくための手がかり

 土壁に展示されている《“今日”の壁》(2026)は、志賀の長年にわたる対話と制作のプロセスを記録した写真や資料で構成される。これらは、本展の作品が他者との協働や実践のなかで立ち現れてきた背景を可視化しており、他者とともにこれからの未来を生きていくための手がかりを提示している。

志賀理江子《踊りのさなかにーわたしは鍋の底でー仁太坊、そして前田竹次郎八人芸に捧ぐ》(2026)HDビデオ(22分54秒)、マスキングテープほか 可変

 本展の最後を飾るのは、ダンスビデオ作品《踊りのさなかにーわたしは鍋の底でー仁太坊、そして前田竹次郎八人芸に捧ぐ》(2026)だ。八戸在住のダンサー・磯島未来と藤林青が、青森市街や蕪嶋神社付近の路上、防潮堤の上などを舞台に、「壊れた近代」をなぞるように踊りを展開する。そこにミュージシャン・砂十島NANIのドラムのビートが重なり、志賀による多様な映像断片が差し込まれる。

 本作の鍵となるのは、タイトルにある「八人芸」の存在だ。八人芸とは、津軽三味線の祖・仁太坊とその友人・前田竹次郎が得意とした、屏風の陰から三味線や笛、鍋、声真似などをひとりで操る即興芸能である。ダンサーの身振りとドラムのビートにこの即興芸能のありようが重ね合わされ、展示室が多重的な音と映像に包まれる空間として立ち現れている。

 なお、本展では絵巻に併記されたテキストや《えなおの逆さぶね》に記された物語をはじめ、会場内の随所に作品の一部として長大なテキストが配されている。それらを読み解き、映像や写真と往還しながら鑑賞するにはある程度の時間を要するため、訪れる際は時間に十分なゆとりを持って臨むことを勧めたい。

 6つの展示室が連なってひとつの生命体のように蠢く空間は、志賀が東北の土地と人々に向き合い続けた時間の集積を伝えている。実際に青森の地に足を運ぶという体験まで含め、志賀の作品世界を体感できる貴重な機会となっている。

編集部

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