茨城県水戸市の水戸芸術館現代美術ギャラリーで、現代美術家・竹村京の個展「竹村 京 うごくせかい」が開幕した。会期は10月12日まで。担当は水戸芸術館現代美術センター学芸員の後藤桜子。
竹村は1975年生まれ。東京藝術大学大学院で油画を学んだのち、ベルリン芸術大学へと渡った。「縫う」という行為を通じて、時間の移ろいや人・ものの移動、天変地異、そして個人の記憶といった揺れ動く世界のなかにある対象へ、新たな光を当てる作品を制作。2015年からは群馬県高崎市に拠点を移し、現在も国内外を舞台に発表を続けている。
学生時代、油画の持つ特有の素材感になじめずにいた竹村は、藝大の伝統行事である「古美術研究旅行」で転機を迎えた。奈良・中宮寺に伝わる日本最古の刺繍遺品《天寿国曼荼羅繍帳》(622)との出会いをきっかけに、絹糸で縫う行為とドローイング、写真、ファウンド・オブジェなどを組み合わせた独自の表現を生み出していった。現代社会においてあえて身近な人物や事象に焦点を当てる制作を深め、「第15回シドニー・ビエンナーレ」(2006)をはじめとする国際展でも高い評価を得ている。
会場では竹村の2000年代の代表作を起点に、平面作品から立体、インスタレーション、パフォーマンスに至るまで、多角的な表現の実践が網羅的に紹介されている。
「縫う」行為を通じて“うごくせかい”と向き合う
展示室へ足を踏み入れると、まず目を奪われるのが壁一面に広がる初期の代表作《A.N. のリビングルーム、地震の予感》(2005)と、《There and Now, Kimi shini tamou koto nakare 2》(2006)だ。前者は竹村の友人が住む新居の日常を等身大で写し取り、その一部を絹糸で縫い留めた作品。ドイツへ渡ったことで、母国である日本が地震大国であることを再認識した竹村が、友人の穏やかな生活が続くよう祈りを込めるかのように糸を走らせている。
後者はシドニー・ビエンナーレ出品作の再制作であり、イラク戦争の悲劇に着想を得て制作されたものだという。目まぐるしく変動する世界の事象を、「縫う」という極めて個人的な営みによって咀嚼し、真摯に向きあおうとする竹村の姿勢が読み取れる。


竹村の平面作品の大きな魅力は、その多層的な画面構造にある。時間の経過とともに移り変わる出来事や、大きな歴史のうねりのなかで淘汰されてしまいそうな個人のささやかな記憶。それらを竹村は縫う行為やコラージュ的アプローチによって掬い上げ、「仮留め」というかたちで留めてみせる。

また同室には、竹村がライフワークとして展開する「修復」シリーズの原点となる作品も並ぶ。ベルリンでの一人暮らしを始めた際、自室で洗濯機が暴発し、近くにあった食器が割れてしまったという。竹村はその破片を薄手の布で包み、割れた痕跡に添うように繊細な刺繍を施した。これがシリーズの始まりとなった。


「壊れたものは壊れたものとして、その状態が見えるかたちで留めておく。散在してしまわないように」。竹村にとっての「修復」とは、もとの状態にきれいに戻すことではない。ものとそこに宿る記憶が、大きな物語に消し去られないようつなぎ止めることなのだ。本展では、この制作の本質ともいえるシリーズから2011〜25年にかけて制作された多数の作品が一堂に会する。一つひとつの破片に宿る物語に思いを馳せながら鑑賞してほしい。また、ブルーライトの暗室で展開される蛍光シルク糸を用いた神秘的な「修復」作品も必見だ。

































