「ブエノスアイレス」に渡ったある日本人の100年
第三部「ブエノスアイレス―《百日草の庭》をめぐる100年」では、先述の《百日草の庭》を出発点としたリサーチプロジェクトの成果が明かされる。

本プロジェクトには、個人の私的な記録の保存・活用をテーマに活動する「AHA![Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ]」の松本篤が同館とともに並走した。作者でありながら経歴不明だった藤岡鉄太郎(ふじおか・かねたろう)の足跡を追う調査のなかで、作品収蔵の年である1927年にアルゼンチンへ渡った同姓同名(同字異音)の人物「藤岡鉄太郎(ふじおか・てつたろう)」の存在が浮上し、舞台は地球の反対側であるブエノスアイレスへと移動する。

展示では、史料や遺族へのインタビュー、遺品などをもとに「ふたりの鉄太郎は同一人物なのか?」という謎にせまる。当時、炭鉱の閉山に伴い海を渡った人々が多く存在したという背景も重なり、「上野」「大牟田」「ブエノスアイレス」という遠く離れた地が、記憶と記録の奥底にある水脈で緩やかにつながっていく。

本展で展開される壮大なストーリーは、東京都美術館の「100年」を多角的に浮かび上がらせる試みでありながら、安易な結論を用意するものではなかった。周縁に追いやられてしまう大小様々な記録や記憶を丁寧に拾い上げるプロセスは、この視点に立体感と奥行きを与えている。その多層的な世界観に触れ、鑑賞者が歩んできた自身の時間や居場所を重ね合わせたとき、また新たな「この場所の風景」が立ち現れてくるのではないだろうか。



















