周縁化された「縫い」の造形とそのつくり手たち
東京都美術館では現在、上野アーティストプロジェクト2025「刺繍―針がすくいだす世界」展を開催している(~2026年1月8日)。「上野アーティストプロジェクト」とは、「東京府美術館」として1926年に開館して以来、制作者たちの自発的な作品発表の場として機能してきた当館の歩みを継承するもの。そうした理念のもと、現在「公募展」や「公募団体展」などと呼ばれ、当館のほか各地の公立美術館などにおいて、様々な制作者団体の主催のもと開催されている公募型展覧会を主な活動の場としてきたつくり手を積極的に紹介し、その魅力を広く発信するという趣旨で2017年に始まったのがこの展覧会シリーズである。本シリーズではこれまで、「絵画」と「書」を中心に、「工芸」「写真」「彫刻」など様々なジャンルの作家に着目してきたが、今回は初の試みとして、「刺繍」と呼ばれてきたような、糸と針を用いた造形・表現に対象を絞り、その多様な世界と向き合うこととした。
今回の企画は、筆者が2020年の当館着任以来、継続的に「上野アーティストプロジェクト」に携わるなかで生じた関心や疑問などが重なり合うことでかたちづくられていった。出発点のひとつとなったのが、21年に同じく上野アーティストプロジェクトとして筆者が企画を担当した「Everyday Life:わたしは生まれなおしている」展(2021年11月17日〜22年1月6日)における、貴田洋子の作品との出会いである。青森出身の貴田は、日展や日本現代美術工芸展で活躍する作家で、本来、衣服の防寒や補強という機能と結びついて発展した「津軽こぎん刺し」の技術や文様の規則を駆使しながら、糸で津軽の風景を表現する。風土に根ざし、生活のために求められた「縫い」の手わざから生み出された造形が、「公募展」という場において新たなかたちを得て再生されるということ、そして、貴田のように活躍するつくり手を評価する際、しばしば「芸術の域にまで高めた」という常套句が用いられていることに、筆者は興味と違和感を覚えた。

























