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「Mr.の個展:いつかある晴れた日に、きっとまた会えるでしょう。」(福岡アジア美術館)会場レポート。オタクとヤンキー、フラジャイルな日常の上で【3/3ページ】

「混沌という名の『日常』」

 ふたつめのセクション「混沌という名の『日常』」は、巨大なインスタレーション《変身》(2026)を中心に、自動車やオートバイ、ぬいぐるみをモチーフとした作品と、Mr.の私物が混然と展示される空間となっている。

《変身》(2026)とそこから続くかたちで雑然と並べられたMr.の私物や自身の写真、制作中の作品など ©Mr./Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 《変身》(2026)は、家電製品、看板、調理器具、生活用品などの巨大な塊に2つの大きな目をつけたものだ。そのタイトルはフランツ・カフカ(1883〜1924)の小説『変身』(1915)から取られたものと思われる。日常生活を送るなかで身の回りにあふれる膨大な情報が、生き物のように存在感を放っている。

《誕生日おめでとう!》(2026)。キャラクターの「ぬいぐるみ」を模した本作は、Mr.の作品に頻出する左右の目の色が異なるオッドアイを持つ ©Mr./Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 《誕生日おめでとう》(2026)は、木材を支柱とした発泡スチロールを支持体に着色、布で服を着せた巨大な「ぬいぐるみ」をモチーフとした作品だ。Mr.が村上隆率いるカイカイキキで頭角を現した00年代、「オタク」的なキャラクター性を象徴するものはポスターやフィギュアであったが、20年代の現在は「ぬい活」という言葉も生まれたように、「ぬい」と呼ばれるぬいぐるみを依り代に、自分が愛好するキャラクターやアイドルへを持ち歩く文化が存在感を増している。本作は自らが好む人物やキャラクターを「推し」と表現するようになった、現代の「オタク」的嗜好に言及する作品と言えるだろう。

《みんなのソアラ》(2026)。80年代当時、国産高級クーペとして任期を博したトヨタ・ソアラが、80年代後半に「ヤンキー車」のベースとして使われた歴史的背景も反映した作品 ©Mr./Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 「ヤンキー文化」と呼ばれる、反社会的な行動や不良的な嗜好が表れた作品も本展の特徴だ。Mr.はかねてより自らを「元ヤンキー」であると述べてきた。《みんなのソアラ》(2026)は、本展のためにMr.が中古の初代トヨタ・ソアラを購入し、「ヤン車(ヤンキー車)」と呼ばれた車に典型的だったカスタマイズを実施した。地面に着くほど車高を下げ、突き出たフロントスポイラーや、竹槍のようにそそり立つ直管マフラーを装着。加えて、屋根には巨大なネコ耳が付けられ、またボンネットやドアには美少女の絵が手描きであしらわれている。他者を威圧し、攻撃的な行動がベースとなっているヤンキー文化だが、ファンシー・キャラクターのような「かわいい」表象との親和性もあったことも、本作は想起させる。ほかにもMr.は風防や長い背もたれの後部座席を装着したオートバイや、デコレーションされた自転車「デコチャリ」なども制作しており「乗り物」が、「ヤンキー文化」の重要な要素だったことをいまに伝える。

Mr.の手によりカスタムされた乗り物作品。「デコチャリ」の《改チャリ 仏恥義理号 -負けたことがねぇ-》や、カスタムされたオートバイ《国道の狼-国士無双- KAWASAKI Z400FX》やスクーター《街の風が軽やかに転がる-city スイート-HONDAクレージュタクトAF09》(いずれも2026)が並ぶ ©Mr./Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 村上隆が「スーパーフラット」(渋谷パルコミュージアム、東京、2000)をキュレーションしてから四半世紀が過ぎた。消費文化を取り巻く状況や、日本、そして世界の経済状況、そして「オタク」と呼ばれる層の実態も大きく変化した。Mr.がその変化にどのように対峙し、アーティストとしての自身の活動の何を変え、何を変えなかったのか。本展は、いまを生きる鑑賞者の目によってその足跡をたどり、現代の我々の周囲にあふれる表象を、改めて再構築するかのうような手つきをもっている。

編集部

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