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「もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち」展(神奈川県立近代美術館 葉山)開幕レポート。東ドイツの女性たちは何を見つめたのか

神奈川県葉山町の神奈川県立近代美術館 葉山で、「もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち」が開幕した。会期は8月30日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=大原愛美(編集部)

クリスティアーネ・アイスラー《無題》(1983)。本展で一部作品はヴィンテージプリントとともにその拡大版も展示され、詳細部分にも目を向けることができる。

 神奈川県葉山町の神奈川県立近代美術館 葉山で企画展「もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち」が開幕した。会期は8月30日まで。担当は同館学芸員の三本松倫代。

本展の展示ロビーには東ドイツの壁掛け地図や東ドイツ美術の図録が展示されている。写真奥はジビレ・ベルゲマン《アネッテとアンゲラ》(1982)。

 本展は東ドイツの15人の女性写真家によるヴィンテージプリントなどを作家ごとに展示することで、それぞれの個性や問題意識を明確に浮かび上がらせるものとなっている。労働者、家族、若者文化、ファッション、身体表現──同じ東ドイツを生きながら、その視線は驚くほどに多様であることがわかる。

ガブリエレ・シュテンツァーの作品。左から《女性詩人─詩》(1984/2025)、《女性詩人─詩、羽を持った》(1984/2025)。シュテンツァーは自身の身体を用いてジェンダーロールや文化の規範を問い直す実践を行なった。

「知られざる女性写真家たち」では終わらない

 本展の意義は、東ドイツの女性写真家を紹介することだけではない。日本で戦後ドイツ写真が紹介される際、その中心にあったのはベルント&ヒラ・ベッヒャーに連なるデュッセルドルフ派をはじめとする西ドイツの系譜だった。いっぽうで東ドイツの写真家、とりわけ女性写真家たちは長らく写真史の周縁に置かれてきた。だが会場で作品を見てまず驚かされるのは、西ドイツのそれに匹敵する完成度の高い表現だ。デジタル補正も高度な編集環境も存在しなかった時代に撮影された写真は、構図、光、タイミングのいずれも緻密に計算されている。写真史を補完する展示という以上に、一群の優れた写真としての見ごたえも感じられる。

クリスティアーネ・アイスラー《無題》(1983)。本展ではライプツィヒの美術大学で写真を学んだ作家が多く取り上げられている。
エリザベート・マインケによるファッション写真。「東のヴォーグ」と称されたファッション・文化雑誌『ジビレ』の写真のほとんどは女性写真家によって撮影された。マインケは本誌で静物、風景、ファッション写真を発表した。

 当時の社会主義体制下の東ドイツでは女性の就労が積極的に推進され、写真の世界も例外ではなかった。ファッション誌の撮影、工場取材、報道写真、行政からの委託撮影など、その仕事の延長線上で、多くの女性たちが自らの表現を育てていった。

 なかでも興味深いのは、職業写真と作家活動が明確に分離していなかった点だ。ときに対立的に語られることもある「仕事」と「創作」は、東ドイツではひと続きのものとして存在していた。そのことは、会場に並ぶ作品からも感じ取れる。ブリキッテ・フォイクト(1934〜2025)は居酒屋や縫製工場など様々な場所で働く女性のポートレイトを、ウーテ・マーラー(1949〜)は創作性の高いファッション写真を撮影した。社会を記録する視線と個人的な関心とが自然に交差し、それが写真表現として結実している。

ジビレ・ベルゲマンによるファッション写真。ベルゲマンもまた『ジビレ』誌で活躍した代表的な写真家のひとり。
ウーテ・マーラーのファッション写真群 左から《ユーリア》(1979/2025)、《ベビーカーを押すエッダ》(1979/2025)、《ユッタ・ドイチュラント》(1981/2025)。モデルのポージングやモチーフに作家の独創性があらわれる。

編集部