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「絵と編物でみる 加藤博子の作品世界」(国立ハンセン病資料館)開幕レポート。隔離を超えて紡がれた創造の軌跡【3/3ページ】

生きていくための手段としての編物

 本展の大きな特徴は、編物作品を独立した章「想いを編み込むー加藤博子のニットデザイン」として紹介している点にある。

「想いを編み込むー加藤博子のニットデザイン」の展示風景

 当初、編物は美大進学を諦めた彼女にとっての「生きていくための手段」であった。しかし、担当学芸員の吉國は、これらもまた彼女の「存在証明」のひとつであると捉えた。実際に展示されたセーターを見ると、絵画で培われた色彩感覚やモチーフがデザインに反映されていることがわかる。

左:加藤博子《セーター、午後の情景》(1980年代)毛糸 57.5×138.7cm、右:加藤博子《セーター、夜の情景》(1980年代)毛糸 58×139cm
《編み方見本帳》(制作年不詳)紙、毛糸、ペン 43×30.9×9cm

 加藤のニットデザインはファッション誌にも掲載され、編物教室を開くなど、その創造性は社会的に高く評価された。展示されている見本帳などの資料からは、彼女の飽くなき探究心が伝わってくる。

加藤博子《労働者の夜》(1970以前)キャンバスに油彩 45.3×37cm

 最終章「共に生きてー加藤健さん」では、朝鮮にルーツを持つ夫・健との歩みが紹介されている。多くを語らなかった健に対し、加藤は短歌をつくり、健が撮りためた写真を集めた写真集を制作した。会場には、健が仲間に向けて手紙を書く姿を描いた《労働者の夜》(1970以前)や、親交のあった写真家・八重樫信之による夫婦のポートレートが展示され、2人の絆の深さが伝わってくる。

八重樫信之《加藤健・博子夫妻》(2017)写真プリント 28.5×42.5cm

 加藤博子というひとりの作家の歩みを丁寧に辿ることで、その表現活動の軌跡を明らかにする本展。作品の背景にある葛藤や挑戦を知ることで、その作品世界がどのように変遷していったのかを深く理解することができるだろう。絵画と編物という2つの視点から、国家と偏見による抑圧のなかで、ひとりの人間が表現を通して生き抜き、何をかたちにしようとしたのか。その足跡を伝える内容となっている。

編集部

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