温泉文化から現代美術へ
YAMADARTの思想的なルーツとなるのは、石川県加賀市・山中温泉にある老舗旅館「花紫」だ。花紫は創業120年以上の歴史を持つ宿であり、現在は六代目当主の山田耕平が運営を担う。山田は10代の頃からストリートアートに関心を持ち、サンフランシスコのアカデミー・オブ・アート大学で写真を学んだ経験を持つ。帰国後はその感性を生かし、2022年より花紫の大規模なリニューアルプロジェクトを始動させた。

同館のリニューアルは「SIMPLICITY」とともに段階的に進められ、現在は、ロビーとスイートルームのフロアの改修が完了している。館内には現代美術や工芸作品が随所に展示されており、入口付近のギャラリーでは現在、山中温泉にアトリエを構える陶芸家イド・ファーバー(Ido Ferber)と木工家ラベア・ファーバー(Rabea Ferber)の作品が紹介されている。旅館は、地域に根差した作家の活動を発信する場としての役割も担っている。

館内にはライブラリーやショップ、茶房などの公共スペースも整備され、これらの空間は地域文化を紹介するショールームのような位置付けとなっている。展示作品の約8割は石川県および北陸地域のアーティストによるもので、宿泊客が作品に興味を持った場合には作家を紹介する仕組みも整えられている。


客室からは、松尾芭蕉が『おくのほそ道』で詠んだ鶴仙渓の景観を望むことができる。自然の雄大さを取り込んだ客室内には、山中温泉ならではの穏やかな時間が流れる。伝統的な旅館の趣と現代的なデザインが融合した空間は、自然と文化、そしてものづくりが交差する場所として構想されている。例えば2024年に完成した、石川県のアーティストとの協働による「アートスイート」では、ガラス作家・佐々木類らの作品が設置されており、山中温泉の自然環境を取り込んだ作品が展示されている。


YAMADARTは、こうした「花紫」の文化的取り組みの延長線上に位置づけられている。ギャラリーは「窓」というコンセプトを掲げており、山田は「このギャラリーが山中温泉と金沢をつなぐ窓となり、新しい文化の往来を生み出す場所になればと考えている」と語る。
また山田は、「石川県には金沢21世紀美術館をはじめとする優れた美術環境があるいっぽうで、作品を実際に購入できる現代美術のギャラリーは決して多くない」と指摘する。鑑賞だけで終わるのではなく、作家の活動を支える市場としての機能を持つ場所をつくりたいという思いも、今回のギャラリー開設の背景にある。

温泉地に根付く創造の文化と都市のアートシーンを結ぶ新たな試みとして、YAMADARTと花紫の活動は今後も注目を集めそうだ。
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