3つの場所から「東京都美術館の100年」を語る
──タイトルにもあるように、本展では「この場所の風景」として「上野」「大牟田」「ブエノスアイレス」の3つの都市が舞台となっています。この構成の意図について、まずは教えてください。
大内曜 本展は「東京都美術館の100年」を様々な角度から見つめ直そうという試みであり、100年という「時間」と、上野をはじめとする「場所」をキーワードに据えました。会場も、タイトルにある3つの場所を舞台にして全三部で構成されています。
まず第一部「上野―東京都美術館の100年」では、開館100周年を迎える東京都美術館のあゆみと、館の周りに広がる上野という街の風景の移り変わりを見つめ直します。第二部「大牟田―江上茂雄の100年」では、福岡県大牟田市で101年の生涯を過ごした画家・江上茂雄(1912〜2014)に注目します。東京都美術館とは直接の関わりはないのですが、そうした表現者を取り上げることで、「東京都美術館」という制度が見落としたり見過ごしたりしてきたものにも焦点を当てたかったのです。
さらに第三部「ブエノスアイレス―《百日草の庭》をめぐる100年」では、市井の人々の記録に着目したメディアづくりを展開してきたAHA! [Archive for human Activities /人類の営みのためのアーカイブ]に展覧会への参加を依頼し、企画制作していただいたリサーチ・プロジェクトが展開されます。ここでは、アルゼンチンのブエノスアイレスという土地が舞台となります。発端となったのは、当館の最初の収蔵品となった藤岡鉄太郎(ふじおか・かねたろう)の《百日草の庭》(1926)という来歴が不明の絵画でした。ちょうど100年前に描かれたこの絵の謎を追うと、同名の人物がこの頃ブエノスアイレスに移住していたことがわかったのです。2人が同じ人物なのかを探るため、ブエノスアイレスに渡った人物の足跡を追いかけていくプロセス自体が、プロジェクトとして展示されています。
──一見すると、この3つの都市には関連性が薄いように思われます。その糸口を知るためにも、各部の具体的な内容をお聞かせください。
大内 第一部では、当館の歴史をダイジェストでたどっていきます。冒頭に並ぶのは、開館した1926年頃の美術館をモチーフにした写真や版画、絵画などです。続いて設けたのが「戦争と戦後」というセクション。1940年代前半の太平洋戦争期には、戦意高揚のための「戦争美術展」が新聞社や陸軍・海軍の主催で行われました。当館はまさにそうした催しの会場となっていました。今回はその側面にフォーカスし、当時の戦争美術展で展示された作品をいくつか紹介しています。

また、戦後の上野の様子も、写真や絵画などを展示することで描き出します。上野駅が焼け残ったことで、一帯には家を失くした人々が集まり、闇市が生まれました。引揚者たちの玄関口でもあった当時の上野が、いかに混沌としていたのかがよくわかります。
さらに、1950年代から60年代の「アンデパンダンの時代」にも着目します。戦後の民主化とともに、芸術における従来のヒエラルキーを解体していこうという流れが起こり、無審査自由出品のアンデパンダン形式の展覧会が勢いよく広がっていきました。その代表ともいえる通称「読売アンデパンダン」展の出品作なども紹介しています。
それから1975年、現在の前川國男設計の建築への建て替えの時期も扱っています。開館50年を迎えて「自主企画展」が始まったり、作品をコレクションしていく「収集活動」が本格化していったりと、美術館という組織が熟成していく過程をご覧いただけます。


──第一部は東京都美術館の歴史全体というよりも、特定の視点に重きを置いたものになっていますね。
大内 はい。100年にわたり数多くの団体展や企画展、またそれ以外の大小様々な美術活動の舞台となった当館の歴史を、このスペースですべて振り返ることは不可能です。今回軸としたのは、戦前から戦後の社会・美術の状況の転換と、例えば開館とともに開催された「第一回聖徳太子奉讃美術展」、あるいは1970年の「人間と物質」展など、代表的な展覧会としてすでに何度も確認されてきたものをなぞるのではなく、読売アンデパンダンにおいても、児童の絵画クラブによる出品といった、館の歴史としてあまり注目されてこなかった事象に目配りをするような意識をしました。
上野の100年を紐解いていくと、日本の美術史におけるこの土地の重要性も改めて見えてきます。明治時代に国を挙げて開かれる博覧会の舞台として上野公園が選ばれ、パビリオンのひとつとして美術館が建てられたことで「美術」という共通認識がこの地で育まれていきました。日本の美術を生み、育んできた土壌としての「上野」を再発見するきっかけになればと思っています。






























