クーンズは社会が「凡庸」とみなすものをあえて取り上げ、日常のオブジェやイメージが持つ象徴的な意味、感情に訴えかける重みを明らかにしてきた。本展はこのようなクーンズの40年以上にわたる実践を紐解くものだ。展示作品の一例を見てみよう。
クーンズが頭角を表した80年代半ばの代表的な作品として挙げられるのが、本展でも一際存在感を放つ《Three Ball 50/50 Tank》(1985)だ。工業製品が持つ文化的な意味を探求した「Equilibrium(平衡)」シリーズを代表する本作は、ガラスの水槽に満たされた蒸留水の中で、3個のバスケットボールが「不安定な浮遊」を保っている。物理学者の協力を得て実現したこの完璧な平衡状態は、現実には存在し得ない「理想の状態」や「死」の隠喩でもある。ありふれたスポーツ用品を美術館の展示品のように提示することで、スポーツ文化と芸術、商業主義を並置・融合。消費財がいかにして社会的価値をまとうのか、人々の願望をかたちづくるのかを浮き彫りにしている。

© Jeff Koons Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris Photo ©︎ Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton
《Three Ball 50/50 Tank》の背景に展示されている《Bracelet》(1995-1998)は、1990年代後半に手がけた「Celebration(セレブレーション)」シリーズに属するもの。同シリーズのなかでは、クーンズの代名詞とも言える《Balloon Dog》がよく知られているが、本作は巨大なキャンバスに描かれた油彩画だ。
驚異的な写実性(トロンプ・ルイユ)によって、フューシャピンクのフィルムの上に置かれたきらめくチェーンブレスレットを再現したこの作品。鏡面のように光を反射する表面は、鑑賞者の視線を誘い、本来は些末なアクセサリーを「聖像(イコン)」のようなスケールへと引き上げている。



















