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「SPRING わきあがる鼓動」(ポーラ美術館)開幕レポート。箱根から立ち上がる創造の鼓動を追う【5/6ページ】

 ジョルジュ・スーラポール・シニャックは、色彩の科学と出会い、水辺の風景を点描という方法で再構築することで、視覚を構成する最小単位へと分解された世界を提示した。その律動は、今日のデジタルイメージを先取りするかのような構造を内包している。

 また、細胞や微生物といったミクロな世界の有機的秩序に着目し、極めて繊細な表現を展開してきた青木美歌によるガラス作品も展示されている。振動し、増幅していく細胞のリズムを、スーラやシニャックの点描表現と響き合わせる構成となっている点も、本章の見どころだ。

展示風景より、手前は青木美歌のガラス作品

 さらに、アンリ・ルソーオディロン・ルドンが描いた幻想的なヴィジョンは、意識の深層から湧き上がるイメージの力を示し、可視と不可視、現実と夢想の境界を揺るがす。ルソーが描いた戦争や文明のモチーフは、たんなる素朴さを超え、歴史や未来を見通す眼差しを備えたものとして、現代的な問いを孕んでいる。

展示風景より、左からアンリ・ルソー《飛行船「レピュブリック号」とライト飛行機のある風景》(1909)、《エッフェル塔とトロカデロ宮殿の眺望》(1896-98)

 この流れは、第二次世界大戦後のドイツを代表するアーティスト、アンゼルム・キーファーの大作《ライン川》(2023)へと引き継がれる。大地、廃墟、神話、歴史の記憶を重ね合わせながら、死と再生の循環を描き出すキーファーの絵画は、個人の内面を超え、文明の根底に潜む精神の道行きを可視化する。

展示風景より、アンゼルム・キーファー《ライン川》(2023)

 これらの作品に通底するのは、未知の領域へと踏み出す勇気と、その過程で生まれる「飛躍」の瞬間である。画家たちが内に宿した鼓動は、時代を越えて鑑賞者と共鳴し、想像の旅をさらに彼方へと導いていく。

編集部