続く第1章では、箱根という土地がいかにして人々を惹きつけ、創造の源泉となってきたのかが、歴史的資料を通して示される。箱根町立郷土資料館の協力により、東海道の旅を題材とした貴重な浮世絵や、町指定重要文化財の絵画が紹介され、江戸時代の箱根越えの過酷さや、旅人たちの緊張と祈りが浮かび上がる。

歌川広重による「箱根越え」の図には、夜明け前に小田原を発ち、提灯や松明を頼りに険しい坂を進む旅の情景が刻まれている。芦ノ湖周辺は、かつて霊性の高い場所としても知られ、修験道の場や信仰の対象であった。こうした箱根の「聖地性」は、たんなる景勝地としてではなく、精神的な拠り所としてこの地が機能してきた歴史を物語る。

19世紀後半以降、箱根は外国人旅行者も訪れる国際的リゾートとなり、日本人絵師のみならず、海外からの「旅する画家」たちもまた、この土地を描きとめていった。また同章では、杉本博司による屏風形式の写真作品《富士図屏風、大観山》(2024)も展示されている。本作は、2024年1月1日の夕刻、箱根の展望地点から長時間露光で撮影されたものだ。浮世絵、水彩、油彩、写真といった多様なジャンルを通して形成されてきた富士山と箱根のイメージは、日本美の象徴としての風景が、いかにして視覚化され、共有されてきたかを示している。





















