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「SPRING わきあがる鼓動」(ポーラ美術館)開幕レポート。箱根から立ち上がる創造の鼓動を追う【4/6ページ】

 展覧会後半は、「共鳴」というキーワードをより明確に立ち上げる、ツェ・スーメイの映像作品《エコー》(2003)から始まる。アルプスの雄大な山岳地帯を舞台に、チェロ奏者でもあるアーティスト自身が音を奏で、その響きが岩肌に反射しながら不規則に空間へと広がっていく様子をとらえた本作は、ツェ・スーメイのキャリアにおける重要な起点となった作品である。

 音はやがて複雑に交差し、鑑賞者には、堅固な山々そのものが発声しているかのような錯覚がもたらされる。峻厳な自然を前に佇む小さな人間の姿は、崇高さに向き合おうとする人間の根源的な衝動を象徴する存在として浮かび上がる。

 ここで示されるのは、自然と人間、個と全体、現在と遥かな時間とが、音の反響を介して結び直されていくプロセスである。本展の前半で提示された「大地の鼓動」は、この章において、聴覚的かつ時間的な次元へと展開されていく。

 続く第5章では、ポーラ美術館が誇る西洋近代絵画コレクションを軸に、19世紀後半から現代に至るまで、崩壊と再生を繰り返してきたヨーロッパにおける創造の旅路がたどられる。

 印象派のクロード・モネフィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・ゴーガンは、移ろう光と色彩の揺らぎに真正面から向き合い、刹那的な感覚と永遠への希求を絵画に託した。モネの《サン=ラザール駅の線路》(1877)に象徴される「旅立ち」のモチーフは、外界への移動であると同時に、内面の探求の始まりでもあった。

クロード・モネ《サン=ラザール駅の線路》(1877)の展示風景
展示風景より、クロード・モネの作品群

編集部