第2章では、箱根に宿る物語性を手がかりに、現代作家による絵画が紹介される。古来より神話や民話の舞台となってきた箱根は、現代においてもなお、想像力を刺激する場であり続けている。
イケムラレイコは、歌川広重《東海道五十三次》との対話を起点に、不可思議な生き物や精霊が棲まう幻想的な風景を描き出す。山あいの湖畔に立ち上がる彼女の絵画世界は、時間や場所の境界を越え、箱根に蓄積された物語の層を詩的に呼び覚ます。

いっぽう、丸山直文は、豊かな水脈を地中に抱く仙石原を取材し、湿潤な空気と光に満ちた風景を描く。萌え出る緑や水たまりに反射する光は土地の呼吸を感じさせ、鑑賞者を静かな回遊へと誘う。両者の作品は、自然のリズムと土地の記憶を織り込みながら、箱根という場に流れる時間を可視化している。

前半部の締めくくりとなる第3章では、素材と自然の力に向き合う2人の作家、小川待子とパット・ステアの作品が対峙する。
陶芸家の小川待子は、土やガラスといった素材が、熱や重力、冷却といった物理的条件、さらには長い時間の作用を受けて変容していくプロセスに着目してきた。本展のために制作された新作《月のかけら 25 − P》(2025)は、陶とガラスを組み合わせ、調整と冷却を幾度も重ねながら生み出された立体作品であり、鉱物的な輝きと脆さを併せ持つ。

対するパット・ステアは、絵具をキャンバスに滴らせ、その流れを重力に委ねることで、偶然性から立ち上がる形象を追求する画家だ。両者に共通するのは、人為を超えた自然の作用に身を委ねながら、美を呼び覚まそうとする姿勢である。土、水、火、風といった要素が交錯するこの空間は、大地の深層と人間の創造行為とが交わる場として立ち上がっている。



















