「神戸六甲ミーツ・アート2025 beyond」開幕レポート。アートとの偶然の出会いを通じて「環境」について思考する【8/9ページ】

風の教会エリア

 通常は非公開である安藤忠雄設計「風の教会」が会期中限定で展示会場として公開されている。

 風の教会の中に展示されているのは岩崎貴宏の《Floating Lanterns》。空間には無数の建築模型の断片が浮遊している。本来建物の完成像を描くために用いられる建築模型を、あえて壊された状態にし、震災や戦争など様々な理由で失われた建築について思いを巡らせる作品となっている。教会という神聖な空間に漂う壊された建築模型は、教会にかけられた十字架に集約するように吊られており、祈りを込められたランタンのように見えてくる。

展示風景より、岩崎貴宏《Floating Lanterns》(2025)

 そして同じエリアにある5階建ての「六甲山芸術センター」へと会場が続く。ここでは各フロアで作品が展開されるが、建物の外観にも作品が拡張されている堀尾貞治×友井隆之による《1ton彫刻までの道程》によって、5階のフロアは覆い尽くされている。身近な単位を用いて「あたりまえのこと」を見えるかたちで表現する試みを重ねる堀尾と友井は、2016年より1キログラムのオブジェを1000個制作して現れる「1ton彫刻」の制作を開始。2018年堀尾の逝去後も友井が制作を継続した。

展示風景より、堀尾貞治×友井隆之《1ton彫刻までの道程》(2025)

 4階に展開されたイケミチコの《未来人間ホワイトマン一靴をはいて街に出ようー》も圧巻である。3部屋に異なるテーマでインスタレーションを展開する本作は、「自然の不変の本質、すなわち、生命、死と人間の愛について」が永遠のテーマだと語るイケミチコのエネルギーを湛えた空間となっている。

展示風景より、イケミチコ《未来人間ホワイトマン一靴をはいて街に出ようー》(2019〜25)

 2階には、第75回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞したことでも知られる開発好明の《未来郵便局in六甲》がある。「一年後に届く手紙を書く」という参加型の作品を通じて、改めて自身や身の回りの人の未来について考える機会がつくられる。

展示風景より、開発好明《未来郵便局in六甲》(2011〜)

編集部