「神戸六甲ミーツ・アート2025 beyond」開幕レポート。アートとの偶然の出会いを通じて「環境」について思考する【5/9ページ】

 このミュージアムエリアにある新池では、川俣正の《六甲の浮き橋とテラス Extend 沈下橋2025》が展開されている。川俣は、パリを拠点に世界各地でプロジェクト行い、建物に木材を張り巡らせる大規模な作品や、制作のプロセスを作品に取り込む「ワーク・イン・プログレス」を実践している。この新池には、2023年に設置したテラスと浮橋に、昨年水中に沈んだ橋が付け加えられ、今年はその沈下橋をさらに延長してテラスを取り囲むような形となった。

展示風景より、川俣正《六甲の浮き橋とテラス Extend 沈下橋2025》(2023〜25)

 そんな川俣の作品を舞台にパフォーマンス作品を展開するのは、京都出身のアーティスト・やなぎみわ。10年に一度しか咲かず、開花後には枯れてしまう大姥百合をコンセプトにした演劇公演《大姥百合(オオウバユリ)》を9月に実施する。2015年から野外劇を手がけるやなぎの作品が、どのようにこの新池の上に繰り広げられるのか、会場で直接目にする必要があるだろう。

 ミュージアムエリアのなかの、六甲高山植物園も会場となっている。ここでは山上の冷涼な気候を生かし、世界の高山植物や寒冷地植物、山野草など約1500種を栽培している。植物を見るだけでも十分楽しめるが、ここにも見逃せない作品たちが点在している。

 まず最初に出会うのは、楠を使った作品で知られる中村萌の《Silent Journey》。複数の作品が並ぶ会場には、絵画と彫刻をシームレスに行き来しながら制作を行う中村の、自然の温もりを感じさせるような作品が展覧される。植物園という様々な植物が集まり共存するエリアに、作品が呼応しているように感じられる。

展示風景より、中村萌《Silent Journey》(2023〜25)

 園内を進むと、突如として「しらす」の大群に出会う。風の環の《しらす、山に昇る》という作品だ。円筒状の空間に何匹ものしらすが群れているように見える本作は、山に設置されたセンサーの気象データが人工光を変化させ、光と風にしらすを模したオブジェが輝き揺れるもの。本作は、近年変化する大阪湾の漁獲量への影響が考えられる風を視覚化することを目的としており、六甲の山、街、海がつながっていることを表現している。見えない自然のつながりに気づくきっかけを生み出す作品だと言えるだろう。

展示風景より、風の環《しらす、山に昇る》(2025)

 ほかには、水面に浮かぶ石灰石由来の紙「HAQUR」と折り紙構造が用いられた遠山之寛の《(semi)sphere》や、なかにブランコが隠されたWinter/Hoerbelt《Embodiment ofBanality(ありきたりさの現れ)》など、様々な植物が生きる環境に溶け込むように、作品が展開されている。

展示風景より、遠山之寛《(semi)sphere》(2025)

編集部