「神戸六甲ミーツ・アート2025 beyond」開幕レポート。アートとの偶然の出会いを通じて「環境」について思考する【6/9ページ】

トレイルエリア

 トレイルエリアは、木漏れ日のハイキングルートやリゾート地の森を感じながら作品に出会えるエリアだ。日本最古のゴルフ場のフェアウェイを眺めながら歩くこともできる。かなり長い山道を歩きながら作品を見るため、歩きやすい服装でくることをおすすめしたい。

 入り口すぐのところで発見できるのは、林廻の《BED》。森の中にひっそりたたずむベッドには、いまにも崩れそうな枕が積み上がり、鑑賞者に不安を抱かせる。アートを通じ間伐の重要性と木材の新たな価値を探究するユニットである林廻は、山林環境のバランスが崩れてきている状況に課題意識を持つという。手入れがされず過密になることでバランスを崩した森の姿を比喩的に表現する本作は、間伐材や使われなくなった神戸洋家具を素材としている。

展示風景より、林廻《BED》(2025)

 森のなかを歩き進めた先に、複数の灯台の光が見える。小谷元彦の《孤島の光 (仮設のモニュメント7)》だ。会場である、数世代にわたって家族の避暑の場として大切にされてきた山荘は、風化してしまったことでいつ崩れてもおかしくない状況にある。そのため巨大な彫刻作品は屋外に設置された。森にひそむこの山荘の空気にあわせ、信仰のかたちを表すことにしたという小谷は、浄化を表す水が人型の中央からあふれるような作品を制作した。かつては賑やかな家族の時間が過ごされたであろうこの場所に、神聖で静かな時間が流れているように感じられるだろう。

展示風景より、小谷元彦《孤島の光 (仮設のモニュメント7)》(2025)

 トレイルエリアにある「六甲山地域福祉センター」では、乾久子の《ことばが開くことばで開く くじびきドローイング》というワークショップが展開されている。「くじびきドローイング」は、くじを引き、そこに書かれていた言葉をお題に絵を描いて、自分も次の人へ言葉を残すという参加型の作品だ。乾はこのワークショップを2008年から各地で行っており、そのすべてで生まれた言葉をアーカイブしている。17年分の人々が残した言葉や絵に自身が生み出したものが連なり、次へバトンを渡していくという連続性を感じられる本作に、ぜひ参加してほしい。

会場風景より、乾久子《ことばが開くことばで開く くじびきドローイング》(2025)
会場風景より、乾久子《ことばが開くことばで開く くじびきドローイング》(2025)

編集部