祥啓と関東の水墨画
関東では、鎌倉五山を中心に水墨画が描かれていたが、京都で将軍家コレクションに直接学んだ祥啓が登場することで一気に発展したという。2階の展示室5では、この祥啓に倣った絵師たちが長らく活動し、生み出した水墨画を追う。

鎌倉の詩軸画の代表作例で古例とされる《披錦斎図》(重文)は、祥啓以前の作。素朴さが感じられるが、水墨画には珍しい、朱、白、緑の桃林の可憐な着彩に注目したい。

祥啓が京都で学んだ芸阿弥から、鎌倉へ下る際に与えられたという《観瀑図》は、足利家の御伽衆であった芸阿弥の現存唯一の貴重な作例。隙のない堅実な構図とさらりとした彩色に、南宋の夏珪らの画に学んだことがうかがえる。
この芸阿弥の作を敷衍しつつ祥啓が描いた《山水図》(重文)も並んで展示されているので、師から学び取った成果をみられるのも嬉しい。


唐絵や水墨画というと難しいという印象を持つかもしれないが、日本人がいかに中国絵画に憧れ、触れ、学び、そこから吸収、展開していったのかを追うとき、おのずとそこに楽しさや魅力が見えてくるはずだ。ましてやいずれも劣らぬ優品揃い。ここまでまとめて見られる機会はそうはないだろう。ぜひお見逃しなく。
なお、同館所蔵の国宝指定作品7件のうち、先の2つの展覧会と本展で6件が出揃った。残る1点は……本地垂迹図の最高峰とされる《那智瀧図》(国宝、鎌倉時代・13~14世紀)だ。お目見えを心待ちにしたい。



















