「春と秋」ではなく、「夏から秋へ」
四季の豊かな日本では、季節ごとの風物や移ろいを感じ、愛する感性がはぐくまれてきた。なかでも古来好まれたのが、穏やかな気候とあわせ、あらゆるものが芽吹き、命輝く春と、その生の終焉を暗示する衰微をたたえる秋だ。
『古今和歌集』では、四季を詠んだもののうち、春と秋の歌が夏と冬に比してかなり多いという。美術でも、桜と紅葉を組み合わせる主題や意匠はよく知られているだろう。
こうした伝統を受け継ぎながら、江戸時代には夏と秋を組み合わせた作品が見出せる。そこに夏を楽しむ感性があり、夏から秋という連続が季節の推移をより感じさせたであろうことに注目し、夏から秋を表した作品で、春と秋だけではなく、四季を愛でた日本人の美意識の広がりをみせる展覧会「夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに」が根津美術館で開催中だ。
同館所蔵の鈴木其一作《夏秋渓流図屏風》は、2020年に、彼の作品ではじめて重要文化財に指定された代表作。其一が描いた夏と秋の図は、琳派の祖とされる俵屋宗達が率いた工房のトレードマーク「伊年」印のある《夏秋草図屏風》にそのルーツをたどれる。この2作を中心に、初夏から晩秋までを所蔵品でたどる。歌川広重、窪俊満(くぼ・しゅんまん)らの浮世絵、上村松園や荒木寛畝(かんぽ)の近代画家の作品など、同館での展示が珍しい作品も含まれ、新鮮さとともに、もうひとつの美学を感じられる空間だ。
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