こうした作家たちの「ノスタルジア」な作品と呼応するように用意されている展覧会が、コレクション展「懐かしさの系譜─大正から現代まで 東京都コレクションより」だ。
いまは失われてしまった大正の風景を淡い色彩で表現した新版画の旗手のひとりである川瀬巴水、デ・キリコの形而上的絵画からの影響を感じさせる中原實、子供たちの一瞬の表情をカメラで捉えた土門拳、時代とともに懐かしい風景へと変化した東京の郊外の新興住宅地を写したホンマタカシらの作品は、時代は変われども、近代以降の我々が「ノスタルジア」とともにあったことを示唆する。
なぜ、人は美術に「懐かしさ」を求めるのか。作家が意図せずとも強力な磁場として生まれるそれを整理するための精緻な分析は、このふたつの展覧会では行われていない。しかし、並んだ作品の持つ「懐かしさ」にどうしても惹かれてしまう人は多いだろう。こうした近代的な感性はいったいどこから来て、どこに染み付いているのか。探求の契機になる可能性が大いにある展覧会といえるだろう。