第1章「街と風景」では阿部達也と南澤愛美の作品が紹介されている。阿部は震災による被害を受けたいわき市の海岸をはじめ、日本の地方の何気ない風景を描いた。具体的にノスタルジアを意識して作品を描いているのではないと語るが阿部だが、いつかどこかで見たようなその夕暮れの風景は、誰の心にも懐かしさを去来させるだろう。
南澤は、何気ない日常風景のなかで擬人化された動物たちが様々に生活している様を、色彩豊かな版画で表現。多くの人々が同じ空間を共有し、同じような行動をとっていることに着目した南澤。人間を動物に置き換えることで、何気ない日常の多重性を露わにしている。
第2章「こども」では、成長とともに消えていく存在であり、そして大人にとっては過去の自分でもある「子供」をモチーフとした作品に焦点を当てるため、芝康弘、宮いつきを紹介。芝は2005年から22年にいたるまで、初期から最新作までの7点の日本画を展示しており、作家がどのように成長していったのかを知ることができる。やわらかな光のなかで物思いにふけったり、集まって語り合ったり、自らの興味に従って行動する子供の姿は、人々の幼少期の記憶と接続するはずだ。
宮いつきは、少女たちが対話したり思い思いに過ごしたりといった、緩やかな情景を描いている。宮の子供たちがモデルという本作が写した豊かな時間は、日本画離れしたマティスを思わせる鮮やかな色彩の処理によって、どこか異国のかけがえのない瞬間を留めたように仕上げられている。