「ノスタルジア《帰らざる風景》」。12人の幻想美術家による展覧会

「失われた世界」「戻ることの出来ない時間」をテーマに12人の作家の作品を展示する「NOSTALGIA《帰らざる風景》」が、神戸元町のギャラリーロイユで開催される。会期は11月5日〜11月22日。

北見隆 校舎

 神戸元町のギャラリーロイユで、「NOSTALGIA《帰らざる風景》」が開催される。同展では、懐古や追憶の情を思い起こさせるものや風景、旅、別れ、喪失の記憶を描いた作品43点を展示。会期は11月5日〜11月22日。 

 参加作家は、現代美術の潮流を離れ、独自の境地を開いた12名。各アーティストを紹介しよう。

伊豫田晃一

 鉛筆・水彩、油彩、銅版画など様々の技法を用いる画家。皆川博子『鳥少年』をはじめ多数の装画・挿絵を手がけてきた一面も持つ。今回は、美しい亡霊の苦悩を巧みに表現した、小池真理子の幻想怪奇小説の装画を見ることができる。その繊細さに目を凝らしたい。

伊豫田晃一 アナベル・リイ

大月雄二郎

 パリ在住。銅版画、油彩、オブジェなどを手がける。世界的に知られる「カンヌ国際映画祭」のポスターなども制作するなど、フランス文化に根付いた活動を継続してきた。2011年には仏芸術文化勲章シュバリエを受勲。本展では、遠い記憶、心の奥で眠っていた感情を一瞬にして呼び覚ます、「音楽」を描いた作品などを出品する。

大月雄二郎 ムーンライト・ソナタ

大竹茂夫

 キノコや昆虫などの形態・生態から発想を得て、現実の中に見え隠れする不思議な異世界を描く。本展で展示される《天井川》などの作品は、作家自身が生まれ育ち、現在も住んでいる土地をテーマにしたもの。時代とともに失われゆく風景が描かれている。

大竹茂夫 天井川

北見隆

 赤川次郎、恩田陸らのミステリー小説や海外文学の装画で知られる作家。1988年のサンリオ美術賞など、国内外の受賞歴も多い。本展では、廃屋となった校舎を幻想的に描いた作品などを見ることができる。

北見隆 校舎

小泉孝司

 横溝正史、松本清張らの挿絵を担当しながら、光に満ちた鮮やかな作品を制作してきた小泉。本展では、思考実験「シュレディンガーの猫」から着想を得た油彩画などを展示する。有と無が同時に存在している「塔」など、機知に富む独創的な表現に注目したい。

小泉孝司 シュレディンガーの塔

合田ノブヨ

 コラージュ作家。書籍の装画等多方面で活躍。今回は、押し花を用いたコラージュに色鉛筆、水彩、パステルで着彩を施し、シシリー・メアリー・バーカーの詩を添えた作品を展示。花言葉からインスピレーションを得、詩情あふれる妖精の世界を表現した。

合田ノブヨ 押し花帖/クレマチス

菅野まり子

 漆黒の顔料を使った背景に、アクリル絵具や油絵具でいつともどことも言えない情景を描く画家。本展では、文明の憂き世に失望した果てにたどり着く、生気漂う密林の仙境、あるいは、原始の自然に抱かれる懐かしい場所を夢想して描いた「樹海」の連作などを出品する。

菅野まり子 樹海Ⅱ

建石修志

 鉛筆、混合技法等により作品を生み出す。制作季刊誌『幻想文学』(〜2003)創刊号の表紙画や中井英夫の小説挿画など、400冊を超える書籍に絵を添えてきた「幻想絵画の異才」だ。今回は、自身を故郷を探す小舟に見立てた作品など、多層的で、創造力あふれる作品を出品。

建石修志 漂い来るもの

林哲夫

 林は画家であり装幀家、著述家。書物雑誌『sumus』を創刊し、『喫茶店の時代』で第15回尾崎秀樹記念大衆文学研究賞を受賞。本展には、アメリカのアンティークドールを描いた油彩画などを出品。幻想と現実の狭間を描く卓越した表現力に注目したい。

林哲夫 ローズ

山下陽子

 山本六三に師事し、銅版画を学んだのち版画・コラージュ・オブジェなどの手法の境界を越えた混合作品を展開してきた。森茉莉、山尾悠子、ジョイス・マンスールなど数多くの挿画、装画も手がけている。「静かな到来」は、かつて自然に覆われ、文明が存在した星の将来を予兆するような作品であるが、いまの時代にどう響くだろうか。本展では、コラージュ作品のほか、オブジェ、コラージュ・フォトプレート・グラヴュールなどを出品。

山下陽子 静かな到来

山本じん

 独学で芸術を学び、絵画のみならず、人形や彫刻など幅広い表現を手がける。ルネサンス期の銀筆画の技法を独自に研究し、1995年から作品を発表し続けてきた。これまで、大江健三郎・沼正三・井上雅彦らの書籍において装画も担当。本展出品作では描かれるのは、外界から遮断されたような世界だ。空気や光まで描かれているような繊細な表現に目を凝らしたい。

山本じん Existence 私はここにいる

山本六三

 J.バタイユ『眼球譚』の挿画などで知られ、人間の永遠の課題「エロスとタナトス」(愛と死)を卓越した技巧で描き続けた画家。パリで開催した個展では、女流シュルレアリストであるレオノール•フィニから称賛をうけ作品を交換した。2001年にこの世を去った後、東京・渋谷のBunkamura(2009)と兵庫県立美術館(2010)で回顧展が開催された。本展では、後期銅版画の代表作を見ることができる。

山本六三 ノスタルジア

編集部

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