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「ノスタルジア―記憶のなかの景色」「懐かしさの系譜─大正から現代まで 東京都コレクションより」(東京都美術館)開幕レポート。なぜ美術は懐かしさを求めるのか【3/4ページ】

 第3章「道」は、いまは失われてしまった情景を様々な手法で表現する入江一子、玉虫良次、近藤オリガ、久野和洋の4人の作家を紹介する。

 入江は2021年に105歳で世を去った画家だ。日本統治時代の朝鮮に生まれ、満州のハルビンやチチハルなどでも個展を開催したこともある入江は、シルクロードの風景や人々の暮らしを描くことをライフワークとした。本展でもアジア各地の様々な情景を淡い色調で描き、遠い場所のかけがえのない瞬間として表現した作品が並んだ。

展示風景より、右が入江一子《イスタンブールの朝焼け》(1975)

 旧中山道沿いの小さな商店街で育ったという玉虫は、子供の頃の失われた街の記憶をつなぎ合わせることでユートピアを現出させる画家だ。会場の壁面いっぱいに展示された大作《epoch》は、路面電車や商店建築、木造電柱にランニング姿の少年など、いまは失われてしまった要素が渾然一体となり密やかな力を生み出している。

展示風景より、玉虫良次《epoch》(2019-23)

 ベラルーシ生まれの近藤は、遠く離れた日本で活動しながらも、つねに心のなかに故郷の風景を宿しながら作品制作をしているという。幾重にも塗り重ねた絵具によって表現される、光のゆらぎと寂寥感があふれる世界は、ここではないどこかへの思いを見るものに訴えかける。

展示風景より、近藤オリガ《孤独の天使》(2009)

 22年に世を去った久野は、徹底して自然と対話しながら作品を制作することを重視した画家だった。緑の中をいく道を描いた作品などは、抽象度が高いながらも道端の草花一つひとつのディティールが伝わってくるような臨場感にあふれており、人の歩みのなかにある小さな慈しみを感じさせる。

展示風景より、左が久野和洋《地の風景・刻々》(2004-05)

編集部

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