グラファイトのドローイングは拡大し、第5章では幅10メートルに及ぶ《流れ-6》(1982)などの作品に結実する。ホワイトスピリット(揮発性油)でグラファイトを流す表現が用いられ、以後も松谷の表現において重要な手法となった。
また、ボンドを用いた有機的な造形も改めて取り組んだ松谷は、グラファイトの黒を重ねることで新たな境地を拓いていった。14メートルもの綿布を素材に取り込んだ《流れ-大谷-93》(1993)は本展でも大きな存在感を放っている。
第6章は、近年の松谷の自由で大胆な制作に迫るもの。特定の手法に縛られることなく、日々の感覚に触発されながら作品を生み出し続けるいま現在の松谷の姿をここから見出せるだろう。
なお、4階のギャラリー3では、未公開のスケッチブックや制作日誌、ドローイングが集結。具体に参加する前の作品や具体時代のコンセプトドローイング、そしてイメージの断片が描かれたスケッチブックなど、松谷が時期ごとにどのようや関心を抱いていたのかが浮かび上がってくる。
87歳のいまもパリを拠点に精力的に活動を続け、見る者に新たな視点をもたらす松谷。本展は、美術史に残る多様な表現活動を総覧し、創作プロセスや思考の流れもたどることができる絶好の機会となっている。
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