まだまだコロナの勢いに陰りが見えないニューヨーク。他の多くの美術館とともに、ニューヨーク近代美術館(MoMA)は3月中から約半年閉館になっていたが、8月27日よりオンラインでの事前チケット予約制で通常の収容人数の25パーセントまでの定員で再開された。再開当初こそ、半年間待ちわびたMoMAファンが殺到しチケット予約を取るのも簡単ではなかったが、旅行客がいなくなり、また多くの富裕層がニューヨークを離れたいま、MoMAは比較的空いている状況だ。
そんな状況ではあるが、MoMAで一見地味だがとても本質的な変化があった。60室からなる常設展示の約3分の1の20室が新しい展示に入れ替えになり、11月14日から公開されたのだ。MoMAの常設展示といえば、5階(1880〜1940年)、4階(1940〜1970年)、2階(1970年以降)。19世紀末のゴッホの星月夜、セザンヌの水浴図からはじまり、印象派、キュビズム、抽象表現主義、ミニマル、ポップ、現代と美術史の王道作品が時代とともに展示され、とくに5階・4階はほとんど展示替えは行われてこなかった。そこに根本的な変更を加え、「New art from wall to wall(壁から壁へ新しい作品を)」と題して約3分の1を入れ替えただけでなく、今後約半年ごとに入れ替えを行っていく予定だという。
MoMAは1932年に現在の53丁目のひとつのビルに移動し、そこから何度も拡張を繰り返し、いまでは53丁目と54丁目、5番街と6番街に挟まれるブロックの大半を占めるまでに拡大した。最新の拡張工事を経て2019年の10月に現在のかたちで再オープンした際に、展示室面積が大幅に増え、ローテーションで常設展の展示替えをしていくことが計画されていたという。
展示替えの一番の意図は、どんどん増えていく新しいコレクション作品や、これまでにコレクションされたはいいが長いあいだ倉庫で眠っている素晴らしいコレクション作品の多くを常設展の一部として見せていくことにある。また、それとともに、これまで西洋、さらにいえばパリからニューヨークに移ったアートの中心地を追うかたちでの美術史を元にした展示設計になっていたものを地理的に拡大して、東欧、南米、中東そしてアジアをも含んだずっとグローバルな常設展をつくっていく試みになっている。加えて、これまでは年代とともに絵画、彫刻、写真といったメディアで区分されていた展示を、メディアをもっと混在させ、これまであまり常設展に入ってこなかったデザイン、建築、商業写真、セラミックなども積極的に入れ込むかたちで、より広範なアートヒストリーを再構築しようという意図も伺える。
これら展示替えのなかでも、日本の読者にとって一番大きなニュースとしては、あのMoMAの常設展示に日本の戦後美術を代表する「具体」「もの派」などが入ったことだろう。主に去年の新規拡張により追加された「Geffen Wing」にて常設展入れ替えが行われたが、4階の戦後美術のフロア内、そのまさに展示替えの入口ともいえる408号室にて、「Everyday Encounters (日常的な出会い)」と題して、巨匠のジャスパー・ジョーンズやロバート・ラウシェンバーグとともに具体を中心に据えた展示がされている。
担当したキュレーターのトーマス・ラックス氏に展示にあたっての考え方を聞いた。