キュレーターに聞く、「田中一村展」の見どころと魅力

秋もっとも注目したい日本美術展のひとつとして「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」が東京都美術館で開催中。絵画作品を中心に、スケッチ・工芸品・資料を含めた250件を超える作品が一堂に並ぶ本展について、田中一村の画業を振り返りながら、展示内容や鑑賞のポイントなどを同展担当の中原淳行氏(東京都美術館・学芸担当課長)に聞いた。

聞き手・文=齋藤久嗣

海老と熱帯魚 昭和51(1976)以前 絹本着色 田中一村記念美術館蔵

田中一村ゆかりの地、上野で開催される過去最大規模の回顧展

──まず、2024年秋に東京都美術館で田中一村の大規模な展覧会が開催されるに至った経緯やきっかけをお聞かせいただけますか?

  2024年は田中一村に関係する周年ではないのですが、奇しくもNHKの美術番組『日曜美術館』で一村が初めて特集されてちょうど40年となる節目の年にあたります。番組放送後、生前まったくの無名だった一村の独創性あふれる作品群は多くの美術愛好家を驚かせ、日本各地で一村ブームが起きました。当館でもいつか一村の展覧会をと考えていたなかで、様々なタイミングがあい開催の運びとなったのが本展「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」です。

田中一村 肖像

──日本画の展覧会としては展示期間が長く、64日も開室されているのですね。

  今回は巡回がなく、東京都美術館単館での開催となったので、日本画としてはやや長めの展示期間を確保することができました。これだけ大規模な展示の場合、国内各地を巡回することも多いのですが、長期間にわたってお借りできない作品もあります。前回の一村の大きな展覧会から14年経って実現する本展にぜひご期待いただきたいと思っています。

──東京都美術館と田中一村の間には、何かつながりや関係性などはあるのでしょうか?

  一村には、故郷の栃木、不遇な時代を過ごした千葉や終の棲家となった奄美大島など、ゆかりある土地がいくつかありますが、じつは、東京・上野もまた一村と関わりの深い場所なんです。1926年4月、17歳のときに一村は今の東京藝術大学の前身にあたる東京美術学校に入学します。在学期間は短く、たった2ヶ月で退学してしまうのですが、彼が在校中の1926年5月に、東京美術学校のすぐ横の敷地に現・東京都美術館の前身にあたる東京府美術館が開館しています。おそらく、在学中に、彼はできたての美術館を見上げていたと思います。

──当時の東京府美術館は、いまとは違う建物だったのですね?

 当時の東京府美術館は、公園法に沿ってフラットに建てられた現在の建物よりも、かなり高さのある建築物でした。正面入口にはギリシャ風の列柱が立ち、石造りの階段を登って入館する荘厳なつくりになっていました。当時の公募展に参加した画家のなかには、初入選の際に誇らしげな気持ちで階段を登った……と思い出を語っている人もいるように、東京都美術館は若手画家にとっての登竜門を象徴するような建物だったのです。ですが、一村は一度も晴れがましい思いでその階段を登ることはできませんでした。戦後「日展」と「院展」に何度か挑戦するも、一度も入選できず、「最後は東京で個展を開いて、絵の決着をつけたい」との言葉も残しているのです。ですから、この東京都美術館で一村の大規模な回顧展を開催することには、少なからず意味があるのではないかと考えています。

編集部

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