本記事冒頭で東南アジアの作家による展覧会であると言いながら、アフガニスタン・パキスタンの作家らが含まれることに疑問を抱いた方も少なくないだろう。第4章「漂流、ループ、循環」では、紛争や弾圧などを理由に国外避難することを余儀なくされた、難民としての背景を持つ作家らを含めた3組を紹介している。
ハーディム・アリ + ムムターズ・カーン・チョパン + アリ・フロギー + ハッサン・アティらは、アフガニスタン・パキスタンの難民として現在はインドネシアでの生活を余儀なくされている。インドネシアでは自国よりは安全に暮らせているのかもしれないが、同地の住民からは「難民」というレッテルを貼られ、あたかも存在していないかのように扱われる日々が続いているという。映像作品《Voice and Noise》には、日常的な行為を行う顔のない人が映し出されており、前述のような扱いについて抗議の意が込められている。
タイ出身のナウィン・ヌートンは、ポストインターネット世代の作家だ。ゲームやミーム文化といったインターネットカルチャーを引用し、8フレームのアニメーション作品を制作した。よく見ると一つひとつのアニメーションは干渉しあっており、この混沌とするディスプレイがタイの揺れ動く政治状況のメタファーにもなっているという。
同じくタイ出身のコラクリット・アルナーノンチャイは、ニューヨークとバンコクを拠点に活動するビジュアルアーティストであり、ストーリーテラーだ。地下の展示室を広く使い、3画面で映像を投影。巨大なインスタレーション空間をつくりあげている。
祖父の死をきっかけに「死者の魂は、どのように巡り、生まれ変わるのか」という問いに向き合ったという作家。3つの映像は同時再生され、日常や神話、詩を用いながら壮大な物語を生み出し、滔々と語り始める。どこかネットの仮想空間のようでありながらも、その死生観や人が寄りあう姿は不思議と現実味を帯び、受け手の心を強く揺さぶるだろう。