西洋諸国と比較し、東南アジアではジェンダーギャップ指数の低さを見ても、男女平等が立ち遅れている現状がうかがえる(146ヶ国中、タイ65位、インドネシア100位、カンボジア102位。なお、日本は118位といった有様だ)。第3章「女性性のカウンターナラティブ」では、社会の周辺的立場に置かれた女性たちによるカウンターナラティブ(対抗する物語)としての作品が紹介されている。
例えば、タイのカウィータ・ヴァタナジャンクールは、女性の家事労働をテーマに、自身の身体を道具に見立てながらパフォーマンス映像を制作。苦しそうに歪んだ表情や辛そうな体勢で扱われる女性の姿があたかも大衆向け広告のようにポップでカラフルに表現されており、その問題を見えづらくしている現状を強く指摘している。
インドネシアのナターシャ・トンティは、先住民族ミナハサ族に伝わる男性を象徴する儀式を、10代の少女たちが行うファンタジー映画《Garden Amidst the Flame》を発表。男性中心社会から逸脱した視点で伝統が再解釈されている。
カンボジアで姉妹としても活動するメッチ・チョーレイ+メッチ・スレイラスは、出産を「川をわたる」というカンボジアならではの表現をもとに映像と写真を展示。子供を産むという神聖でありながらもどこかグロテスクにも見えるその行為は、出産の壮絶さと女性の身体への多大なる負担をも表しているのかもしれない。
インドネシア・バリ島出身のチトラ・サスミタは、15世紀のバリより伝わる平面画法カマサン・スタイルを用いて、当時男性によって描かれてきた女性に対する誤った表現を解きほぐし、女性性をめぐるあらたな神話として描き直している。