現在、2会場で開催中の東南アジア初となるミニマリズム展「ミニマリズム - 空間、光、そしてオブジェ展」。前編のナショナル・ギャラリー・シンガポール会場に続き、この後編ではシンガポール随一の観光エリア、マリーナベイ・サンズのアートサイエンス・ミュージアム会場を見てみよう。
モシェ・サフディが設計した蓮のような印象的な建物。このアートサイエンス・ミュージアムには、約5000平米に21の展示スペースが設けられている。そのうち半分以上のスペースを占めた本展では、アジアの精神性や哲学を掘り下げ、これらの思想がミニマリズムに与える影響を探る。
同館館長であるホーナー・ハーガーは本展について次のように語る。「私たちは、美術と科学の博物館としての強みを持ちながら、ミニマリズムと科学の双方に共鳴する宇宙論的虚空、虚しさ、無という理念を表す作品を展示しました。また、サウンドと静寂も本展の重要な部分となります。40人のミュージシャンと作曲家がサウンドルームで作品を上映することで、展示空間内でミニマリズムの視覚的探索と聴覚的対話をつなぐことが可能になります」。
「Absence=不在」や「Void=虚空」を大きなテーマとした本展は、ミニマリズムの東洋的解釈に内在する、深遠な単純さや静けさを反映している。
展覧会の入り口では、モナ・ハトゥムのインスタレーション作品《+ and -》(1994-2004)とチームラボの映像作品《円相》(2017)が来場者を出迎える。ハトゥムの《+ and -》は、日本の禅園からインスピレーションを受けている。砂の表面に枯山水のような砂紋を作る装置が回転して、創造と破壊のプロセスを機械化し繰り返す本作は、「現前」と「不在」、「存在」と「非存在」を同時に引き起こす。
ドナルド・ジャッドの彫刻作品《Untitled (Six Boxes)》(1974)は、15センチ間隔に設置された6つの黄銅ボックスで構成されている。わずかに反射する作品の表面は作品が存在する空間と鑑賞者が歩き回る身体の影を反射し、その空間に視覚的なリズムをつくりだしていた。
258個の石が円で囲まれたリチャード・ロングの彫刻作品《Ring of Stones》(1982)は、ロングによると「線や円のような人間の抽象的なアイデアとなる形式主義と自然のパターンとのバランス」を表現するものだ。この円形の作品は、本展の円形の会場やほかの円をモチーフにした作品とも呼応している。
「Void=虚空」がテーマに見られる作品として、フレドリック・ド・ワイルドの絵画作品《Horizontal Depth3 – “This Is Not the Place We Go to Die. It’s Where We Are Born”》(1981)などの作品がある。
ワイルドの作品は、すべての周波数で光を吸収するというもっとも黒い顔料を使って制作されたものだ。この作品を注視すると、鑑賞者はまさしく何もない空間、つまり「虚空」を見ているような感覚に陥る。ワイルドは、「それは未知に対する究極の賛美です」と述べている。
ナショナル・ギャラリー・シンガポール会場で《Room for one colour》(1997)を展示するオラファー・エリアソンは、ここでも大規模な作品を見せる。インスタレーション作品《Seu corpo da obra (Your Body of Work)》(2011)は、天井から吊り下げられた半透明の色付きシートで構成された迷宮のようなもので、鑑賞者の位置に応じて色層が変化する空間をつくりだす。
続く地下2階の展示スペースには、ミニマリズムの定義を考え直した最終章「After Minimalism」が登場する。繰り返されるオブジェクトやシンプルな幾何学的形状、空間との連動などミニマリズムのもっとも代表的な表現手法を用いて制作した作品を展示。同階では、チームラボの常設展「FUTURE WORLD:アートとサイエンスが出会う場所」も行われている。
ドナルド・ジャッドなどいわゆる「ミニマリズム」のアーティストだけでなく、オラファー・エリアソンやアニッシュ・カプーアなど現代のアーティストたちも巻き込み、ミニマリズムの解釈を拡大させた本展。東南アジアで初となったこのチャレンジングな展覧会をお見逃しなく。