「ミニマリズム」とは何か?
シンガポールで開幕した東南アジア初の展覧会を振り返る(前編)

東南アジア地域初のミニマリズム展「ミニマリズム - 空間、光、そしてオブジェ」が、11月16日よりシンガポールを代表する2つの美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポールとアートサイエンス・ミュージアムでスタートした。ミニマリズムの解釈を拡大させる本展の、各会場の見どころを、前後編で紹介する。前編はナショナル・ギャラリー・シンガポール。

展示風景より、宮島達男《Mega Death》(1999/2016)

 東南アジア地域初のミニマリズムに焦点を当てた大規模展覧会「ミニマリズム - 空間、光、そしてオブジェ」がシンガポールの2つの主要な美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポールとアートサイエンス・ミュージアムで11月16日にスタートした。

ナショナル・ギャラリー・シンガポール外観

 1960年代にニューヨークとロサンゼルスに登場したミニマリズムは、美術史の大きな転換点とも言える動向。作品をもっとも本質的な要素に戻し、展示場所と強い関わりを持ち、鑑賞者に直感的な体験を与える。

 本展開催の意図について、ナショナル・ギャラリー・シンガポールの館長・陳維徳(ユージーン・タン)は、「ミニマリズムはアジアの現代的なデザインやライフスタイルに大きな影響を与えてきたが、その地域のアートとの関係はあまり知られていない。本展では、ミニマリズムとアジアのアートとの関係、そしてアジアの精神性と哲学がその起源に及ぼす影響について探求する」と語る。

ナショナル・ギャラリー・シンガポール館長・陳維徳(右)が開幕式で語る

 本展では、両会場に80人以上のアーティストによる約150点の作品が展示される。

 ナショナル・ギャラリー・シンガポールは、1950年代から現在までのミニマリズムの発展の軌跡をたどるもので、アジアのアートとの持続的な関係、またアジアのアーティストがもたらした貢献が示された。

会場吹き抜けに展示されるソピアップ・ピッチ《カーゴ》(2018)

 同館では、3つの主要な展示室に加え、いくつかの作品が公共スペースや特別展示室に点在する。

 展示はギャラリーAから始まる。ギャラリーAは、ミニマリズムの起源を遡り、「序章」「カラーフィールド・ペインティング」「ニューヨークのミニマリズム」「ロンドンのミニマリズム」「ポスト・ミニマリズム」「ランド・アート」の6章で構成されている。

展示風景より、左からフランク・ステラ《Tomlinson Court Park (Second Version)》(1959)、マーク・ロスコ《No.5》(1964)、バーネット・ニューマン《Queen of the Night I》(1961)、桑山忠明《TK996-'60》(1960)

 展示スペースに入ると、マーク・ロスコやフランク・ステラなどニューヨークを拠点とした作家が1950年代から60年代に制作した単色の絵画作品が来場者を出迎える。これらの作品は抽象表現主義とミニマリズムをつなぐものであり、ミニマリズムの連続性や反復性の表現手法の起源が見られる。

 このほか、ドナルド・ジャッドやロバート・モリス、ソル・ルウィットなどの作家による立体作品が存在感を放つ。スチール、ガラス、プラスチックなどの工業生産の材料で作られた作品は、厳密なほどに幾何学的であり、1960年代以降の社会の機械化や標準化の傾向を反映している。

展示風景より、手前はロバート・モリス《Untitled》(1965/1971)
展示風景より、モナ・ハトゥム《Impenetrable》(2009)

 ギャラリーBは、「もの派」と「ライトとスペース」の2章構成。

 1960年代末に日本で出現した大きな現代美術の動向である「もの派」は、主に石や、木、紙といったものを単体で、あるいは組み合わせて、素材をほぼそのまま作品化したことが大きな特徴。この「もの派」をミニマリズムとしてとらえた第7章「もの派」の展示室には、関根伸夫の出世作《位相-大地》(1968)の記録写真や菅木志雄の《無限状況I(窓)》(1970/2012)、高松次郎の「単体」シリーズ(1971)など、もの派を代表する作家の作品が並ぶ。

展示風景より、左から時計回りに小清水漸《Paper 2012-2》(1969/2018)、菅木志雄《無限状況I(窓)》(1970/2012)、関根伸夫《位相-大地》(1968/2018)、高松次郎「単体」シリーズ(1971)

 続く第8章の「ライトとスペース」では、ロバート・アーウィンやフレッド・サンドバック、アニッシュ・カプーアなどの作家による空間を活用した立体作品に加え、ピーター・ケネディなどの作家が蛍光管を使って制作したネオンインスタレーション作品を展示。

展示風景より、手前はピーター・ケネディ《Neon Light Installations》(1970-2002)
展示風景より、ロバート・アーウィン《Untitled》(1968)

 そのうち、人間の視覚と知覚を揺さぶることで知られているオラファー・エリアソンが制作した作品《Room for one colour》(1997)は、人間の視覚に光と色が与える科学的影響を探求するものであり、本展でも大きな注目を集めていた。

 がらんとした部屋では、黄色と黒を除くすべての色を抑える単一周波数の蛍光灯が照らしており、すべての物質が灰色で見える。人間の認識が固定されているのではなく、環境によって常に変化していることを明らかにするものだ。

展示風景より、オラファー・エリアソン《Room for one colour》(1997)

 ギャラリーCは、ミニマリズムと「禅」などアジアの精神性との関係、そしてアジアのアーティストがミニマリズムにもたらした影響を探るもので、「ミニマリズムと仏教」と「コンテンポラリー・レガシーズ」の2章で構成されている。

 仏教、とくに禅の思想は、多方面でミニマリズムに影響を与えたとされている。この展示室では、ジョン・マクラッケンやフェリックス・ゴンザレス=トレス、内藤礼などの作家を「禅」の思想があふれる作品として展示するいっぽう、ミニマリズムの最小限の原則や反復性を復興させ、個人的または政治的な懸念を作品化する作家として、アイ・ウェイウェイや劉建華(リウ・ジャンファー)などの作品も紹介されている。

展示風景より、手前はジョン・マクラッケン《Cosmos》(2001)
展示風景より、アイ・ウェイウェイ《Sunflower Seeds》(2010)

 また、公共スペースでは、エルムグリーン&ドラッグセットの彫刻的な白い立方体のバーを再現した作品《Queer Bar/Powerless Structures, Fig. 21》(1998-2018)が展示されている。内側に椅子、外側にビールのタップがあるという構造を反転させたこの作品は、権力の構造や社会的慣習に挑戦し、変化の可能性を呼び起こす。

 ナショナル・ギャラリー・シンガポール会場の最後には、宮島達男のLEDライトで作られた数字のカウンターの作品《Mega Death》(1999/2016)が特別展示室に登場。輝くLED数字のインスタレーションは、宮島達男が「人生の輝き」と呼ぶ、変化と休止の永続的なサイクル、すなわち誕生、死、そして再生を繰り返すものを示している。数字ゼロが短い暗闇に置き換えられ、サイクルがふたたび始まる前に、生と死の間の休止を表す。

展示風景より、エルムグリーン&ドラッグセット《Queer Bar/Powerless Structures, Fig. 21》(1998-2018)
展示風景より、宮島達男《Mega Death》(1999/2016)

 なお、ナショナル・ギャラリー・シンガポールでは現在、シンガポールの水彩画家・林清河(リン・チンホー)の大規模な回顧展「シンガポールを描く」や中国の水墨画師・呉冠中(ウー・グァンジョン)の個展「文心と画境」、東南アジアの美術に注目した常設展「宣言と夢の間:19世紀以来の東南アジア美術」など多彩な展覧会が行われている。これらの展覧会もあわせてチェックしたい。

編集部

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