新たなミュシャ美術館が開館。その狙いとは?

2月24日にチェコの首都プラハに新しい「ミュシャ美術館」が開館した。遺族が運営する財団が都市開発の投資会社と協働し、観光客や市民に総合芸術家としてのミュシャを再発見してもらうことを目的としている。現地からその取り組みをリポートする。

文=飯田真実

プラハ市民会館内「市長の間」のミュシャによる装飾 © Archiv Obecní dům, a.s. Courtesy Prague City Tourism

なぜいま、新美術館を開館したのか?

 欧米でアール・ヌーヴォーの時代に独自の様式を花開き、キャリア後半は故郷チェコを拠点にスラヴ文化(*1)の精神を芸術に昇華したアルフォンス・ミュシャ(1860〜1939)。その死後、彼の芸術遺産は遺族によって守られ、1992年、息子のイジーの意志を継いだ妻ジェラルディンと、アルフォンスの孫にあたるジョンがミュシャ財団を設立。伝記の出版やミュシャ展を世界で開催しながら次世代に引き継ぐ役割を担ってきた。98年にはチェコ国内最初のミュシャ美術館をプラハのパンスカー通りに開館。500平米の展示室で主にパリ時代のポスターや装飾的なグラフィック作品が展示されていた。

 2月24日、ミュシャ財団はプラハの目抜き通りに面するサヴァラン宮殿内に新しく「ミュシャ美術館」を開館した。その前夜、市内のレストランでプレス向けの会合が開かれ、胸元にロサンゼルスのスケートボードブランドのロゴ、背中には「ミュシャ様式」の女性画が大きくプリントされたパーカーを着た人物が参加者を迎えた。2016年からミュシャ財団のエグゼクティブ・ディレクターを務めるマーカスだ。アルフォンスの曾孫にあたる彼は、チェコとイギリスの二重国籍を持ち、チェコ語と英語に加え、フランス語や日本語も話す。ケンブリッジ大学を卒業後、ハリウッドで映画やテレビのプロデューサーとしても活躍した。

 近年もミュシャ人気の高いフランスでは、リュクサンブール美術館(パリ、2018-19)の回顧展に続いて、「Alphonse Mucha - La Beauté Art nouveau」展を県立ブルターニュ博物館(Musée départemental breton/カンペール、2021)で、「Maître de l’Art Nouveau」展をコーモン・アートセンター(エクス=アン=プロヴァンス、2023-24) で開催した。60年代以降、レコードのジャケットやタトゥーなどで図版が応用された北米では、「Alphonse Mucha: Art Nouveau Visionary」展をノースカロライナ美術館(ローリー、2021-22)とケンタッキーのスピード美術館(ルイビル、2022-23)で、マンガやアニメ業界のミュシャファンも多い日本では、「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ―線の魔術」展を企画。Bunkamura ザ・ミュージアム(東京、2019)ほか日本国内7ヶ所を巡回させ大成功を収めた。また、Google Arts & Culture、HTC VIVE Arts、グラン・パレ・イマーシブとのコラボレーションを通じて、デジタル技術を活用した発信にも力を入れてきた。

  マーカスと、中央ヨーロッパなどで都市開発事業を展開する不動産開発会社クレスティルCEOとの交流をきっかけに、ミュシャ財団と同社の協力関係が築かれる。この協働は、2022年にプラハ国立美術館の分館のひとつ、ヴァレンシュタイン乗馬学校で開催された「Mucha: The Family Collection」展で、同年後期にEU議長国となったチェコが文化の中心的存在となることを支援すると同時に、チェコの子供たちが祖国を代表する芸術家の作品を無料で鑑賞できる機会を提供した。さらに、プラハ中心地にあるサヴァリン宮殿の再生とも結びつき、新美術館の構想が具体化していった。

サヴァリン宮殿敷地内の中庭と周囲の建物がトーマス・ヘザウィックにより刷新される構想図。ミュシャ美術館はこれらの手前にあるバロック様式の建物の中にある。全体が完成するのは2030年の予定(2025年1月時点)
© heatherwick studio 画像引用=https://www.designboom.com/architecture/thomas-heatherwick-studio-prague-savarin-09-25-2019/

編集部

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